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AIセキュリティのリスクと対策|サイバー攻撃が続く日本で会社がやること

AIセキュリティのリスクと対策のアイキャッチ

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この記事は、2026年11月時点の公的資料・公表情報にもとづいています。

AIセキュリティ対策の基本は、「AIに入力してよい情報を決める」「AIの答えを人が確かめる」「AIに任せる権限をしぼる」の3つです。あわせて、ランサムウェアなどのサイバー攻撃には、機器の更新・多要素認証・バックアップという基本対策を社内に根づかせることが、会社の規模を問わず効果的です。

生成AIを仕事に使う会社が増える一方で、日本では工場の製造や物流が止まるほどのサイバー攻撃の公表が続いています。

この記事では、警察庁やIPA(独立行政法人情報処理推進機構)などの公的資料と、被害を受けた企業が公表した調査結果をもとに、建設・製造・物流などの会社が今できる対策を整理します。

■ この記事でわかること

  • 警察庁の統計で見る、日本へのサイバー攻撃の今
  • 公表された被害事例から学べること
  • 生成AI・AIエージェントのセキュリティリスクと社内ルールのつくり方
  • IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版にもとづく基本対策
  • 国の制度・相談窓口と、攻撃を受けたときの動き方

■ 日本へのサイバー攻撃の今|警察庁の統計から

警察庁は、1年ごと・半期ごとにサイバー空間の脅威の情勢を公表しています。

数字は警察が把握した被害報告の件数で、実際の被害のすべてではありません。

▶ ランサムウェア被害は2026年上半期に半期で過去最多

ランサムウェアは、会社のデータを暗号化して使えなくし、元に戻すことと引きかえに金銭を求める攻撃です。

警察庁によると、2025年(令和7年)のランサムウェア被害報告件数は226件で、警察庁は「依然として高水準で推移」としています。

2026年(令和8年)上半期は123件でした。統計を取り始めた2020年下半期以降、半期として最も多い件数です。

項目2025年2026年上半期
被害報告件数226件123件(半期で最多)
中小企業の割合約6割約6割
最も多い業種製造業(約4割)製造業(約3割)
侵入経路がVPN機器6割以上約5割
復旧費用1,000万円以上5割超約6割
1か月未満で復旧5割強5割弱
出典:警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等」(令和7年・令和8年上半期)。2025年の侵入経路・費用・期間は被害組織へのアンケート結果

被害の約6割が中小企業で、業種では製造業が最も多い状態が続いています。「うちの規模なら狙われない」とは言えないことが、統計から読み取れます。

2025年のアンケートでは、事業継続計画(BCP)を策定していた組織は約18%にとどまりました。1か月未満で復旧できた組織も5割強にとどまり、止まったときの備えが課題です。

▶ 侵入口の中心はVPN機器

侵入経路の約5〜6割を占めるのが、社外から社内ネットワークにつなぐためのVPN機器です。

JPCERT/CC(JPCERTコーディネーションセンター)は2026年も、VPNなど社内と社外の境目に置く機器の脆弱性(弱点)について、注意喚起をくり返し出しています。

▶ ニセ社長詐欺・フィッシングも高い水準

2026年上半期には、社長などを名乗って社員に送金させる「ニセ社長詐欺(CEO詐欺)」の認知件数が127件、被害額は約38億8,000万円にのぼりました。被害にあった1件あたりの金額は約3,100万円です。

本物そっくりの偽メールや偽サイトでIDやパスワードを盗む「フィッシング」の報告は、2025年に2,454,297件(フィッシング対策協議会の集計)、2026年上半期も約73万件ありました。

2025年のインターネットバンキングの不正送金は4,747件、被害額は約103億9,700万円で、手口の約9割がフィッシングでした。法人口座を狙い、電話を使う「ボイスフィッシング」による不正送金も2025年に急増し、1社で4億円を超えた例もあります。

▶ 生成AIを悪用した事件も警察庁の報告に

警察庁の2025年の報告では、生成AIが、フィッシングサイトの作成、不正なプログラムの作成、サポート詐欺の偽の警告画面の作成と日本語への翻訳に悪用された例が挙げられています。

2026年上半期の報告には、19歳の会社員が生成AIを使ってランサムウェアを作ったとして2026年6月に逮捕された事件(千葉県警)や、AIで作った顔で警察官になりすました特殊詐欺の事件が載っています。

■ 公表された被害から学ぶ|製造・物流・クラウドの事例

ここでは、各社の公表資料によると何が起きたのかを紹介し、ほかの会社が学べることを整理します。

各社が公表した被害の状況や原因、再発防止策は、同じ立場の会社にとって貴重な手がかりです。

▶ アサヒグループホールディングス(飲料製造)

何が起きた:2025年9月29日午前7時ごろにシステム障害が起き、ランサムウェアによる攻撃と判明しました。同日11時ごろにはネットワークを遮断しています。

国内グループの受注・出荷・コールセンターが止まり、国内6工場の製造も一時中断しました(10月2日に製造を再開)。受注・出荷は手作業での対応が長く続き、物流は2026年2月までに正常化しました。

公表された原因:同社は2026年2月18日の調査結果で、障害の約10日前に、グループ内の拠点のネットワーク機器を経由して侵入されたと公表しました。

2026年2月18日時点で流出を確認した個人情報は115,513件(従業員等5,117件、取引先関係者等110,396件)です。その後、2026年7月17日に漏えいのおそれがある範囲を再整理し、約228.9万件と公表しています。

学べること:同社は再発防止策として、通信経路の再設計と接続の制限、外部との接続を安全な領域に限ること、監視の強化、バックアップ戦略とBCPの再設計、社員教育と外部監査を挙げています。

グループ会社や拠点の機器も含めて、「どこから社内につながっているか」を把握することが出発点になります。

▶ アスクル(オフィス用品の通販・物流)

何が起きた:2025年10月19日にランサムウェア攻撃を受け、ASKUL、ソロエルアリーナ、LOHACOの受注を停止しました。EC受注の再開は、ASKULが12月初旬、LOHACOが2026年1月中旬です。

公表された原因:2025年12月12日の第13報で、業務委託先が使う管理者アカウントの認証情報が漏れ、そのアカウントに多要素認証(MFA)が適用されていなかったことが侵入の突破口になったと公表しました。

漏えいは2025年12月12日時点で約74万件(事業所向け約59万件、個人向け約13.2万件、取引先約1.5万件、役員・社員約2,700件)です。

学べること:再発防止策は、委託先を含むすべてのリモートアクセスへの多要素認証の適用、管理者権限の厳格な運用、再教育です。攻撃者と接触しておらず、身代金の支払いや交渉も行っていないと公表しています。自社の社員だけでなく、保守業者など委託先が使うアカウントも対策の対象に入れることが大切です。

▶ IDCフロンティア(クラウド・データセンター)

何が起きた:2026年10月7日午前3時40分ごろにクラウドサービスで障害が起き、同日、ランサムウェア攻撃と発表しました。東日本リージョン1の4つのゾーンで、495の企業・自治体に影響が出ました。

公表された原因:10月27日の調査結果で、顧客向けポータルの認証システムが使うオープンソースソフトウェアの脆弱性が悪用され、仮想化基盤の管理者権限を奪われたと公表しました。仮想サーバー内のデータの外部流出は確認されなかった一方、ポータルの登録情報への不正な照会が確認されました。

学べること:10月8日の第3報では、顧客のデータは取り出しや復元が困難な見通しとされ、利用者自身のバックアップから別の環境で立て直すよう案内されました。その後、スナップショット機能を使っていた194の顧客はバックアップを取り出せることがわかっています。

使っているクラウドや委託先が止まれば、自社の業務も止まります。自社でもバックアップを持ち、別の場所で立て直せるかを確認しておきましょう。

▶ 赤武エンジニアリング(静岡県の製造業)

何が起きた:静岡県沼津市で粉体機器を手がける同社は、2026年8月10日にサーバーのファイルが暗号化される被害を受けました。従業員125件と取引先担当者11,587件の個人情報に漏えいのおそれがあると公表しています。

公表された原因:管理者権限を不正に取得されたとみられる、としています。

学べること:ファイルサーバーはバックアップから復元できました。再発防止策には、多要素認証、クラウドへの移行、バックアップの強化、ログの外部保存などを挙げています。第1報(8月13日)から最終報(10月13日)まで経過を公表しています。

▶ 4つの事例から学べること

観点事例から見えたこと(例)会社でできること
入口ネットワーク機器や認証の弱点から侵入機器・ソフトの更新、不要な接続の停止
多要素認証委託先の管理者アカウントに未適用社外からの接続はすべて多要素認証
バックアップ復元できるかが復旧の早さを左右分けて保存し、復元を試す
委託先・クラウド他社の被害で自社の業務も停止契約・役割分担・代わりの手段の確認

個人情報保護委員会も、2026年10月7日に改訂した不正アクセスへの注意喚起で、グループ会社や海外拠点を経由した侵入、クラウド事業者を経由した暗号化、保守契約で脆弱性への対応が抜けていた例などを挙げています。

そのうえで、対策は「どれか一つを講じればよいということではなく、多層的に講ずる必要」があるとしています。

■ AIのセキュリティ問題とは?生成AIのリスクを整理

IPAが毎年発表する「情報セキュリティ10大脅威」の2026年版(2026年1月29日公開)で、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織編の3位に初めて選ばれました。順位は、約250名の選考会の投票で決まっています。

順位情報セキュリティ10大脅威2026(組織編)
1位ランサム攻撃による被害(10大脅威への選出は11年連続)
2位サプライチェーンや委託先を狙った攻撃
3位AIの利用をめぐるサイバーリスク(初選出)
4位システムの脆弱性を悪用した攻撃
5位機密情報を狙った標的型攻撃
出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(6位以下は省略)

IPAは、3位のリスクの中身として次の3つを挙げています。

  • AIへの理解不足による、意図しない情報漏えいや権利の侵害
  • AIの出力を検証せずに信じることで起きる問題
  • AIの悪用でサイバー攻撃がしやすくなり、手口も巧妙になること

これに「AIエージェント」特有のリスクを加え、4つに分けて説明します。

▶ 生成AIに機密を入力してしまうリスク(生成AIの情報漏洩)

生成AIのチャットに入力した内容は、AIを提供する会社のサーバーに送られます。サービスや契約によっては、入力内容がAIの学習に使われることがあります。

たとえばChatGPTは、個人向けプランでは入力内容が学習に使われることがあり(設定で止めることができます)、Business・Enterprise・APIでは原則として学習に使わないとされています。

個人情報保護委員会は2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、事業者が個人情報を含むプロンプト(指示文)を入力するときは、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう求めています。

あわせて、本人の同意なく学習などに使われると法違反のおそれがあるため、提供事業者が学習に使わないことを確かめるよう求めています。

会社が把握していないところで、社員が個人のアカウントでAIを使う「シャドーAI」にも注意が必要です。どの情報がどこに送られたのか、会社が管理できなくなるためです。

見積書、図面、顧客名簿、従業員の健康情報など、建設・製造・物流の会社には外に出せない情報が多くあります。

▶ AIの回答をうのみにするリスク(ハルシネーション)

生成AIは、事実と違う内容をもっともらしく答えることがあります。これを「ハルシネーション」と呼びます。

法令の条文番号や数値、作業の手順をまちがえることもあり、そのまま社外文書や作業手順書に使うと、事故や損害につながるおそれがあります。安全や法令に関わる内容は、原文や公的資料、社内の責任者で必ず確かめましょう。

▶ AIを悪用した攻撃(フィッシングの巧妙化・なりすまし)

以前は、不自然な日本語から偽メールに気づけることもありました。しかし警察庁の報告にあるとおり、生成AIはフィッシングサイトの作成や偽の警告画面の日本語翻訳にも悪用されています。文面だけで見分けるのは難しくなっていると考えたほうが安全です。

AIで作った顔や声で人になりすます「ディープフェイク」もリスクのひとつです。日本では、AIで作った顔で警察官になりすました特殊詐欺の事件が、警察庁の報告に載っています。

海外では、英国の設計・エンジニアリング会社Arupの香港拠点で、ディープフェイクのビデオ会議によって幹部になりすまされ、多額の送金をしてしまったと報じられています。

送金や振込先の変更の依頼は、メールやチャット、ビデオ通話の相手が本物に見えても、あらかじめ決めた別の連絡手段で本人に確かめる。このルールを社内で決めておくことが有効です。

▶ AIエージェント特有のリスク(AIエージェントのセキュリティ)

AIエージェントは、人の指示を受けて、Webサイトの閲覧、メールの送信、ファイルの操作、予約や購入などを自分で進めるAIです。便利な反面、答えを返すだけの生成AIにはなかったリスクがあります。

代表的なのが「プロンプトインジェクション」です。Webページやメール、文書の中に紛れ込ませた指示をAIが読み取ってしまい、利用者の意図と違う動きをする問題です。

OpenAIは2025年12月の公式ブログで、プロンプトインジェクションはエージェントのセキュリティにおける「未解決の課題」であり、ネット詐欺と同じように完全に「解決」される見込みは低いとしています。

Anthropicも2025年11月の公式発表で、エージェントが開くWebページはすべて攻撃の入口になりうるとし、どのブラウザエージェントもプロンプトインジェクションから免れないと明言しています。同社の社内テストでは、改良した防御を入れても攻撃の成功率は1.4%で、ゼロにはなっていません。

さらに、AIエージェントにメール、ファイル、支払いなど広い権限を与えていると、だまされたり誤作動したりしたときの被害が大きくなります。意図しない発注やファイルの削除が起きることも考えられます。こうした「過剰な権限」の問題は、OWASPの資料でも取り上げられています。

作った会社自身が「完全には防げない」と認めている以上、使う側が任せる範囲と確認の手順を決めておく必要があります。

■ 会社でできるAIセキュリティ対策|社内ルールのつくり方

AIを一律に禁止すると、かえって個人アカウントでの「隠れた利用」が増えかねません。使ってよい範囲を決め、安全に使える環境を会社が用意するのが現実的です。

ルール具体例
入力禁止の情報を決める個人情報、顧客・取引先の情報、図面・見積、未公表の情報、パスワード
法人プラン・学習オフ学習に使われない契約・設定を確認してから業務に使う
ツールは許可制会社が確認したツールとアカウントだけを使う
出力は人が確認法令・数値・社外文書は原文や責任者で確認
エージェントの権限は最小限必要なフォルダ・アカウントだけ渡し、支払いは任せない
重要な操作は人が承認送信・購入・削除・送金の前に人が確認
記録を残す誰が何に使ったか、エージェントの操作ログを保存

▶ 入力してよい情報・いけない情報を決める

「機密情報は入力しない」だけでは、現場の社員は何が機密なのか判断できません。

たとえば「顧客名・氏名・住所・電話番号」「図面・見積金額」「従業員の健康診断の結果」「取引先から預かった資料」のように、会社で扱う書類の名前で示すと伝わりやすくなります。個人情報を扱う場合は、利用目的の範囲内かどうかも確認が必要です。

▶ 法人向けプランと学習オフの設定を確認する

AIサービスの各社は、法人向けの契約では入力内容を原則として学習に使わないと案内しています。たとえばChatGPTのBusiness・Enterprise、Google Workspaceの契約で使うGemini(組織の許可なく学習に使わない)、Microsoft 365 Copilot(企業データを基盤モデルの学習に使わない)などです。

条件は変わることがあるため、各社の公式ページで定期的に確認しましょう。許可したツールとアカウント以外は業務に使わない「許可制」にすると、シャドーAIを防ぎやすくなります。

▶ AIエージェントの権限は最小限、重要な操作は人が承認

AIエージェントには、作業に必要な範囲の権限だけを渡します。

OpenAIは利用者へのすすめとして、ログインが不要な作業はログアウトした状態で使うこと、購入やメール送信などの確認画面をよく見てから承認すること、指示は広く任せず具体的にしぼることを挙げています。

送信・購入・削除・送金など取り消しにくい操作は、必ず人が承認してから実行する設定にします。あわせて、エージェントの操作の記録(ログ)を残し、おかしな動きがないか確認できるようにしておきます。

▶ AI事業者ガイドライン第1.2版も参考に

総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月31日に第1.2版が公表されています。

社内ルールを作るときや見直すときの参考になります。

■ サイバー攻撃への基本対策|中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン

中小企業のセキュリティ対策の土台になるのが、IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」です。2026年3月27日に第4.0版が公開されました(前の版は2023年4月の第3.1版)。

経営者編と実践編に分かれ、付録には「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」やインシデント対応の手引きなどがあります。SCS評価制度の考え方に合わせた内容になっています。

▶ まず取り組む「情報セキュリティ6か条」

第4.0版では、これまでの「5か条」に「バックアップを取ろう!」が加わり、「情報セキュリティ6か条」になりました。

番号情報セキュリティ6か条
1OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう!
2ウイルス対策ソフトを導入しよう!
3パスワードを強化しよう!
4共有設定を見直そう!
5バックアップを取ろう!(第4.0版で追加)
6脅威や攻撃の手口を知ろう!
出典:IPA「情報セキュリティ6か条」

IPAの資料には、具体的な取り組みとして次のような例が示されています。

  • パスワードは10文字以上にし、使い回さない
  • VPNなど重要なシステムは、多要素認証やパスキーを使う
  • 機器の初期パスワードを変える
  • サポートが切れていないOS・ネットワーク機器を使う
  • バックアップ用の機器は、バックアップのときだけつなぐ
  • バックアップから復元できるか、定期的に試す
  • 退職・異動のときは、アクセス権をすぐに消す

▶ VPN機器・OS・ソフトを最新に保つ

警察庁の統計で侵入経路の中心になっているのがVPN機器です。社内でどのVPN機器・ネットワーク機器を使っているか、誰が管理しているかを一覧にし、更新の担当を決めましょう。

JPCERT/CCの注意喚起で自社の機器の名前が出ていないかを確認し、サポートが切れた機器は入れ替えを計画します。

▶ 多要素認証を社外からの接続すべてに

多要素認証は、パスワードに加えてスマートフォンのアプリやパスキーなどで本人を確かめるしくみです。

アスクルの事例のように、委託先や保守業者が使うアカウントも対象です。「社外から社内につながるアカウントには例外なく多要素認証」を原則にしましょう。

▶ バックアップは分けて保存し、復元を試す

ランサムウェアは、社内のネットワークにつながっているバックアップまで暗号化することがあります。バックアップ用の機器は常時つなぎっぱなしにせず、分けて保存します。

取るだけでなく、実際に復元できるかを定期的に試すことが大切です。赤武エンジニアリングはバックアップからファイルサーバーを復元できました。一方でIDCフロンティアの事例では、利用者自身のバックアップがあるかどうかが立て直しを左右しました。

▶ メールと送金の依頼は「別の手段で確認」

管理者が最新の手口を社員に知らせ、社員は気になるメールをすぐ報告する流れを決めておきます。

送金や振込先の変更の依頼は、電話など別の手段で本人に確かめることを社内ルールにします。

▶ 委託先・クラウドの対策を確認する

個人情報保護委員会の注意喚起では、保守契約に脆弱性への対応が入っているか、委託先との役割分担がはっきりしているかを確かめることが挙げられています。クラウド事業者のセキュリティ対策も確認しておきましょう。

委託先やクラウドが止まったとき、どの業務が止まり、手作業などの代わりの手段があるかも考えておきましょう。

▶ インシデント時の連絡体制を決めておく

「おかしい」と気づいた社員が、誰に、どの手段で連絡するかを決めておきます。社内の責任者、システムの保守業者、取引先、警察などの連絡先を一覧にし、紙でも保管しておくと、システムが止まったときにも使えます。

■ 国の制度と支援|中小企業が使えるもの

▶ SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)

SECURITY ACTIONは、中小企業が自らセキュリティ対策に取り組むことを宣言するIPAの制度です。

★一つ星は「情報セキュリティ6か条」に取り組むこと、★★二つ星は「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」の25項目で状況を把握し、情報セキュリティ基本方針を定めて外部に公開することが基準です。まず一つ星から始めると、社内で取り組む項目がはっきりします。

IPAは中小企業向けに「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の制度も設けています。内容や申込方法は、IPAのサイトで最新情報を確認してください。

▶ セキュリティ対策評価制度(SCS評価制度・★制度)

経済産業省と国家サイバー統括室は、2026年3月27日に「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」(SCS評価制度)の制度構築方針を公表しました。

格付けではなく、取引先どうしで対策の状況を共通の基準で見えるようにする制度です。★3が基礎的な段階、★4はより広い範囲の対策を求める段階で、★5は2026年度以降に検討するとされています。

★3・★4の申請受付は2026年度末ごろの開始を目指しており(変更の可能性あり)、2026年11月時点ではまだ始まっていません。2026年10月28日には★3・★4の要求事項・評価基準の1.1版が公開されました。

特定のセキュリティ製品の導入は求めておらず、経済産業省は制度の名前を使った不適切な勧誘にも注意を呼びかけています。まずは6か条などの基本から準備を進めておくと安心です。

▶ 能動的サイバー防御法と中小企業

いわゆる能動的サイバー防御の関連法として、「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(令和7年法律第42号)と、その整備法(令和7年法律第43号)が2025年5月16日に成立し、5月23日に公布されました。

2026年10月1日に主要な規定が施行されました。届出・報告の義務の対象は、国が指定する基幹インフラ事業者です。一般の中小企業に直接の届出・報告義務はありません。

政府が代わりに守ってくれる制度ではないので、自社の対策は引き続き必要です。

▶ 困ったときの相談窓口

  • 警察:都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口。警察庁にもランサムウェア対策のページがあります。
  • IPA 情報セキュリティ安心相談窓口:電話03-5978-7509(平日10:00〜17:00、1回30分まで)。メール・FAX・郵送・チャットボットでも相談できます。
  • JPCERT/CC:インシデントの報告はWebフォームかメールで受け付けています(電話での報告は原則受け付けていません)。犯人の特定や捜査は対象外です。
  • 個人情報保護委員会:法律で定める一定の個人情報の漏えい等が起きたときの報告先です。

■ もしもサイバー攻撃を受けたら

一般的な流れを紹介します。実際の対応は状況によって変わるため、警察や保守業者、専門家に早めに相談してください。

▶ 被害の広がりを抑え、記録を残す

最初に考えるのは、被害をこれ以上広げないことです。アサヒグループホールディングスは、障害が起きた日のうちにネットワークを遮断しています。

いつ、どの機器で、どんな異常に気づいたかを記録しておくと、調査や届出に役立ちます。初動の考え方は、IPAのランサムウェア特設ページから案内されている「ランサムウェア被害から学ぶ教訓集」や、JPCERT/CCの「侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ」が参考になります。

▶ 警察・個人情報保護委員会に届け出る

サイバー攻撃の被害は、都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口に相談します。

個人情報保護法第26条にもとづき、法律で定める一定の漏えい等(そのおそれを含む)が起きたときは、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です。

報告の義務があるのは、同法施行規則第7条の4つの類型(要配慮個人情報/財産的被害のおそれ/不正の目的のおそれ/本人が1,000人超)に限られます。不正アクセスなど不正の目的による漏えい(そのおそれを含む)は、この類型にあたります。

期限は施行規則第8条で定められています。速報は「速やかに」(個人情報保護委員会の案内では目安3〜5日)、確報は30日以内(不正の目的によるおそれがある場合は60日以内)です。詳しくは個人情報保護委員会のサイトで確認してください。

▶ 取引先・顧客に連絡する

受注や出荷が止まると、取引先の仕事にも影響が出ます。わかっていることとわかっていないことを分けて、早めに伝えましょう。

▶ 身代金への対応は専門家と相談して決める

アスクルは、攻撃者と接触しておらず、身代金の支払いや交渉も行っていないと公表しています。対応を社内だけで決めず、警察や専門家に相談したうえで、会社として判断しましょう。

■ セキュリティ対策は社員教育から|安全衛生教育と同じ考え方

ここまでの対策は、どれも社員が知っていて行動できることが前提です。

IPAの6か条の6番目には「脅威や攻撃の手口を知ろう!」があり、アサヒグループホールディングスもアスクルも、再発防止策に社員教育・再教育を挙げています。IPAのガイドラインにも、付録として人材育成ガイドブックがついています。

これは、現場の安全衛生と同じ考え方です。労働安全衛生法第59条第1項は、労働者を雇い入れたときに、従事する業務に関する安全・衛生の教育を行うことを事業者に義務づけています。危険を「知っている」ことが事故を防ぐ第一歩だからです。

セキュリティも、くり返し伝えることで身につきます。安全衛生の仕組みに、次のように組み込めます。

  • 新入社員教育:安全衛生教育と一緒に、AIの利用ルールとパスワード・メールの基本を伝える
  • 朝礼:月に一度、最近の手口(ニセ社長詐欺・フィッシングなど)を1分で共有する
  • KY(危険予知)・ヒヤリハット:「怪しいメールを開きかけた」も報告してよい雰囲気をつくり、事例として共有する
  • 定期的な見直し:年に一度、AIの利用ルールと連絡体制を見直し、変更を全員に伝える

「報告しても叱られない」職場であることは、労働災害の防止でもセキュリティでも大切です。

※当社はサイバーセキュリティの講習は行っていません。

安全衛生教育の計画や、新入社員教育の進め方に悩んでいませんか。
📞 042-497-8840 に電話して相談する(相談無料・年中無休・7:00〜21:00)
安全衛生教育の計画や受講の手配について、会社の状況をうかがいながらご案内します。

■ よくある質問

▶ Q. 生成AIに入力した情報は漏れますか?

A. 入力した内容は提供会社のサーバーに送られ、サービスや契約によっては学習に使われることがあります。業務では、学習に使われない法人向けの契約・設定を確認し、個人情報や機密を入力しないルールを決めておくことが大切です。

▶ Q. 中小企業もサイバー攻撃に狙われますか?

A. 警察庁の統計では、ランサムウェア被害の約6割が中小企業で、業種では製造業が最も多くなっています(2025年・2026年上半期)。会社の規模にかかわらず、対策が必要です。

▶ Q. 中小企業のセキュリティ対策は、まず何から始めればいいですか?

A. IPAの「情報セキュリティ6か条」から始めるのがおすすめです。取り組んだうえでSECURITY ACTIONの一つ星を宣言すると、社内の目標にもなります。

▶ Q. AIエージェントは会社で使って大丈夫ですか?

A. AIを開発するOpenAIやAnthropic自身が、プロンプトインジェクションは完全には防げないと公式に認めています。使う場合は、渡す権限を最小限にし、送信・購入・削除などの重要な操作は人が承認する設定にして、操作の記録を残しましょう。

▶ Q. サイバー攻撃を受けたら、どこに相談すればいいですか?

A. 都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口に相談します。技術的な相談はIPAの情報セキュリティ安心相談窓口(03-5978-7509、平日10:00〜17:00)も利用できます。

個人情報保護法第26条・施行規則第7条の4類型(要配慮個人情報/財産的被害のおそれ/不正の目的のおそれ/本人1,000人超)にあたる漏えい等があれば、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です。

期限は施行規則第8条で、速報は「速やかに」(目安3〜5日)、確報は30日以内(不正の目的によるおそれがある場合は60日以内)です。

■ まとめ

  • ランサムウェア被害は2026年上半期に半期で過去最多の123件。約6割が中小企業で、製造業が最多
  • 公表された事例から学べるのは、入口(ネットワーク機器・認証)、多要素認証、バックアップ、委託先・クラウドの4つの観点
  • AIのリスクは、情報漏えい、出力のうのみ、攻撃への悪用、AIエージェントの誤作動の4つで整理できる
  • AIは「入力しない情報」「人が確認」「権限は最小限・重要な操作は人が承認」をルールにする
  • 基本対策はIPAの「情報セキュリティ6か条」。社員教育でくり返し伝えることが、何よりの備えになる

■ 講習のお申込み・ご相談

産業技能センターは、労働安全衛生法にもとづく特別教育や安全衛生教育を行っている会社です(サイバーセキュリティの講習は行っていません)。

多くの科目が1名8,000円〜(税込・教材費・修了証発行費込み)です。オンライン講習はGoogle Meetで1名から受講でき、出張講習は関東1都6県なら5名様から伺います。

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