特別教育の講師には、法令で定められた資格はありません。ただし通達で「教習科目について十分な知識、経験を有する者でなければならない」とされており、誰でもよいわけではありません。修了証の交付も法令上の義務ではないため自社で発行できますが、法令上の義務として必ず残すべきなのは「記録(3年間保存)」の方です。
「社内で特別教育をやりたいが、講師は誰でもいいのか」「修了証は自分たちで作ってよいのか」「何枚もある修了証を1枚のカードにまとめたい」。安全衛生の担当者からよく出る疑問です。この記事では、条文と通達を根拠に、社内で特別教育を行うときに守るべきことと、修了証・記録の扱いを整理します。修了証の再発行や記録の保存期間の詳細は別の記事で解説しているので、ここでは「自社で実施・発行するとき」に絞ります。
■ 特別教育を行う義務は「事業者」にある
まず前提として、特別教育を行う義務を負うのは誰かを確認します。
▶ 安衛法第59条第3項:事業者が行わなければならない
労働安全衛生法第59条第3項は、次のように定めています。
「事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。」
主語は「事業者」です。つまり特別教育は、もともと会社が自ら行うことを前提にした教育です。外部の講習機関に任せることもできますが、それは事業者の義務を果たす手段の一つという位置づけです。
▶ 違反したときの罰則
第59条第3項に違反した場合は、安衛法第119条第1号により6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。「社内でやったつもり」でも、科目や時間が足りなければ特別教育を行ったとは言えないおそれがあります。だからこそ、社内実施では中身と記録が大切です。
▶ 中身は告示「安全衛生特別教育規程」で決まっている
安衛則第39条は、特別教育の実施について必要な事項は「厚生労働大臣が定める」としています。これを受けて定められた代表的な告示が安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)です。業務ごとに、学科・実技の科目、範囲、時間が決められています。なお、クレーン・玉掛けや酸素欠乏危険作業などの特別教育は、それぞれ別の特別教育規程(告示)で定められています。この記事では、これらをまとめて「特別教育規程」と呼びます。
一方で、安全衛生特別教育規程には講師の資格や修了証の様式についての定めはありません。ここが「講師に資格は必要か」「修了証は自作でよいか」という疑問につながるポイントです。
■ 特別教育の講師に資格は必要?
▶ 法令上の資格要件はない
安衛法・安衛則・特別教育規程のいずれにも、特別教育の講師の資格要件は書かれていません。この点は、厚生労働省の通達でも明確にされています。
昭和48年3月19日 基発第145号「労働安全衛生法関係の疑義解釈について」では、「特別の教育は、特定の講師に委託して行ってもさしつかえないか。なお、講師の資格如何」という問いに対し、次のように答えています。
「さしつかえない。なお、特別の教育の講師についての資格要件は定められていないが、教習科目について十分な知識、経験を有する者でなければならないことは当然である。」
つまり、特定の資格や講師登録は不要ですが、教える科目について十分な知識と経験があることが前提です。
▶ 「十分な知識、経験」をどう判断するか
何をもって「十分」とするかは、法令にも通達にも具体的な基準はありません。そのため、社内で講師を選ぶときは、あとから説明できる根拠を残しておくことが大切です。たとえば次のような観点で、社内の目安を決めておくとよいでしょう(法令上の基準ではなく、当サイトの例です)。
- その業務に長く従事し、作業手順や危険のポイントを具体的に説明できる
- 学科の科目(機械の構造、作業方法、関係法令など)を、規程の範囲どおりに教えられる
- 実技で、受講者の操作を見て危ない動きをその場で止められる
- 同じ業務の上位の資格(技能講習の修了など)や、外部で講習を受けた経験がある
特に「関係法令」の科目は、現場経験だけでは説明が不正確になりがちです。条文の確認が必要な部分だけ外部の資料や講習を活用する、という分け方も考えられます。
▶ 学科と実技で講師を分けてもよい
講師の人数や分担についても法令上の定めはありません。学科は安全衛生の担当者、実技は現場のベテランが担当する、といった分け方も可能です。その場合も、それぞれが担当する科目について十分な知識、経験を持っていることが前提になります。
■ 社内で特別教育を行うための条件
社内で実施するときに押さえるべきことを、根拠とあわせて整理します。
| 項目 | 法令上の定め | 根拠 |
|---|---|---|
| 実施の義務 | 事業者の義務 | 安衛法59条3項 |
| 科目・時間 | 業務ごとに決まっている | 特別教育規程 |
| 講師の資格 | 定めなし(十分な知識・経験は必要) | 昭48基発145号 |
| 科目の省略 | 十分な知識・技能があれば可 | 安衛則37条 |
| 記録の保存 | 義務(3年間) | 安衛則38条 |
| 修了証の交付 | 交付を定めた規定なし | — |
| まとめたカード | 法定の様式なし | — |
▶ 規程の科目と時間を満たす
社内実施で最も大切なのは、特別教育規程の科目・範囲・時間をそのまま満たすことです。規程の時間は「○時間以上」と定められているため、規程より短い時間で終えることはできません。
実技が定められている業務では、実技も必要です。実技用の機械・設備や、安全に実技ができる場所を社内で用意できるかも、社内実施を決める前に確認しておきたい点です。
▶ 科目を省略できるのは「十分な知識及び技能」がある場合だけ
安衛則第37条は、科目の全部または一部について「十分な知識及び技能を有していると認められる労働者」については、その科目を省略できるとしています。
ただし、どの程度の知識・技能があれば省略できるかを会社の判断だけで広く解釈するのは避けた方が安全です。判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署にご確認ください。省略する場合は、その理由(どの資格・どの教育を受けているか)を記録に残しておきます。
▶ 記録の作成と3年間の保存は義務
安衛則第38条は、「事業者は、特別教育を行なつたときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを三年間保存しておかなければならない」と定めています。
修了証とちがい、記録は法令上の義務です。社内実施の場合は、受講者名、実施日、科目ごとの時間、講師名を残しておくのが基本です。保存期間や保存方法の詳細は「安全衛生教育の記録の保存」で解説しています。
▶ オンラインで行う場合の注意
社内でもオンラインで学科を行うことはできますが、厚生労働省の通達で条件が示されています。学科は条件を満たせばオンラインで実施でき、実技は講師と同じ場所で対面で行う必要があります。詳しくは「特別教育はオンラインで受けられる?」をご覧ください。
「社内の講師で本当に足りるのか」「この時間割で規程を満たしているか」と迷ったら、実施前に一度確認しておくと安心です。
📞 042-497-8840 に電話して相談する(相談無料・年中無休・7:00〜21:00)
対象の業務と人数をお伝えいただければ、社内実施と外部講習のどちらが合うかを一緒に整理します。
■ 修了証は自社で発行できる?
▶ 修了証の交付は法令上の義務ではない
安衛法・安衛則・特別教育規程を確認すると、特別教育について事業者に義務づけられているのは「教育の実施」(安衛法第59条第3項)と「記録の作成・保存」(安衛則第38条)です。修了証の交付を定めた規定は見当たりません。
そのため、社内で特別教育を行った場合に、自社で修了証を作って交付すること自体は問題ありません。外部の講習機関が修了証を出しているのも、受講した事実を本人や会社が示しやすくするための運用です。
なお、安衛法第61条第3項の「資格を証する書面の携帯」は、免許や技能講習が必要な就業制限業務についての規定で、特別教育はこの対象ではありません。とはいえ、現場で元請から教育を受けたことの確認を求められる場面はあるため、本人が提示できるものがあると実務上は便利です。
▶ 修了証に記載するとよい事項(例)
法定の様式はないため、次の表は当サイトで作成した記載例です。法定様式ではありません。会社の実情に合わせて調整してください。
| 記載事項 | 記載例 |
|---|---|
| 教育の名称 | ○○の業務に係る特別教育 |
| 根拠 | 労働安全衛生法第59条第3項 |
| 受講者 | 氏名・生年月日 |
| 実施日 | ○年○月○日〜○日 |
| 内容 | 学科○時間・実技○時間 |
| 実施者 | 会社名・所在地・代表者名 |
| 講師 | 講師の氏名 |
| 番号 | 社内の修了証番号 |
▶ 自社で作るときに気をつけたいこと
- 規程の科目・時間をすべて満たした人にだけ交付する(一部欠席した人には出さない)
- 修了証番号と、安衛則第38条の記録が対応するようにしておく
- 実際の時間や内容と異なる記載をしない
- 受講者が退職しても、記録は会社に残す
インターネット上には修了証のテンプレートも出回っていますが、形式よりも「規程どおりの教育を行い、その記録と一致していること」が本質です。見た目を整えることより、裏付けとなる記録を確実に残すことを優先してください。
■ 複数の修了証をまとめたカードは法定?
フルハーネス、足場、高所作業車など、1人が複数の特別教育を受けていると、修了証が何枚にもなります。これを1枚のカードにまとめたいという相談は少なくありません。
複数の修了証をまとめたカードについても、法令上の定めはありません。会社が独自に作る分には問題ありませんが、あくまで社内で作った一覧表のような位置づけです。次の点に注意してください。
- 元になる修了証や記録(どこで・いつ・何時間受けたか)は別に保管する
- 外部機関で受けた教育は、その機関名と受講日を正しく書き写す
- 新たに受講したら更新し、古いカードとの食い違いを残さない
修了証を紛失した場合の扱いは「特別教育の修了証の再発行」で解説しています。
■ 外部の講習を使う場合
▶ 外部への委託は通達で認められている
前述の昭和48年3月19日 基発第145号で、特別教育を特定の講師に委託して行うことは「さしつかえない」とされています。社内に講師となる人がいない、実技の設備がない、受講者が少ない、といった場合は外部の講習を使う方が現実的です。
▶ 外部講習でも義務を負うのは事業者
外部に任せても、安衛法第59条第3項の義務者は事業者のままです。講習を選ぶときは、次の点を確認しておくと安心です。
- 特別教育規程の科目・時間を満たした内容か
- 実技が必要な業務では、実技の進め方が示されているか
- 修了証や受講記録など、受講した事実を示す書類が受け取れるか
外部で受講した場合も、受講者・科目・日付がわかる書類(修了証の写しなど)を会社で保管しておくと、記録の確認を求められたときに説明しやすくなります。外部受講時の安衛則第38条の記録の扱いについて判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
▶ 社内実施と外部講習の使い分け
たとえば、毎年まとまった人数が入る業務は社内で実施し、人数の少ない業務や関係法令の解説に不安がある業務は外部講習を使う、という組み合わせも考えられます。講師の負担、設備、受講人数を見て、無理のない方法を選ぶことが大切です。特別教育の対象業務は「特別教育・技能講習の一覧」で確認できます。
■ 産業技能センターの特別教育講習
産業技能センターでは、社内で講師を立てるのが難しい会社や、社内実施と組み合わせて外部講習を使いたい会社向けに、特別教育を実施しています。
- 料金:多くの科目が1名8,000円〜(税込・教材費・修了証発行費込み。人数・地域・実技の準備などにより変わる場合があり、正確な金額はお見積もりでご案内します)
- オンライン講習:Google Meetで1名から受講できます(学科)。実技の進め方を含め、受講方法はお問い合わせの際にご案内します。
- 出張講習:関東1都6県は5名様から伺います(交通費・宿泊費・出張基本費なし)。遠方は20名様以上が目安で、少人数の場合はオンライン講習をご案内しています。
- 当センターでオンライン講習を行っていない講習(対面のみ):チェーンソー(伐木等)、【初回】職長・安全衛生責任者教育、アーク溶接等特別教育
お申込みは、お問い合わせ→お見積もり→お見積もりのご確認後、お振込みをもって講習日を確定する流れです。人数の変更は講習日の3日前まで承ります。ご相談はお問い合わせフォームからも受け付けています。
■ よくある質問
▶ Q. 特別教育の講師になるための資格や講習はありますか?
A. 法令上、特別教育の講師に必要な資格はありません。ただし昭和48年3月19日 基発第145号で、教習科目について十分な知識、経験を有する者でなければならないとされています。講師を選んだ理由を社内で説明できるようにしておくと安心です。
▶ Q. 特別教育の修了証は自社で発行してもよいですか?
A. 修了証の交付を定めた法令の規定は見当たらないため、自社で発行すること自体は問題ありません。ただし、法令上の義務は安衛則第38条の記録の作成と3年間の保存です。修了証は規程どおりの教育を終えた人にだけ交付し、記録と内容を一致させてください。
▶ Q. 特別教育修了証のテンプレートや決まった様式はありますか?
A. 法定の様式はありません。教育の名称、受講者、実施日、学科・実技の時間、実施者、講師などを記載しておくと、受講の事実が伝わりやすくなります。この記事の記載例も法定様式ではないため、会社の実情に合わせて調整してください。
▶ Q. 複数の特別教育修了証を1枚のカードにまとめてもよいですか?
A. 会社が独自にまとめたカードを作ることは可能ですが、法令で定められたカードではありません。元になる修了証や記録は別に保管し、新しく受講したら更新して食い違いが出ないようにしてください。
▶ Q. 社内で講師ができる人がいない場合はどうすればよいですか?
A. 外部の講習を利用できます。通達(昭和48年3月19日 基発第145号)でも、特別教育を「特定の講師に委託して行ってもさしつかえない」とされています。外部の講習を使っても、教育を行う義務は事業者にあります。受講後は修了証の写しなど、受講した事実がわかる書類を会社で保管しておくとよいでしょう。
■ まとめ
- 特別教育を行う義務は事業者にあり(安衛法第59条第3項)、違反は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象
- 講師の資格要件は法令にないが、通達で「教習科目について十分な知識、経験」が必要とされている
- 社内実施では、特別教育規程の科目・時間を満たし、記録を作成して3年間保存する(安衛則第38条)
- 修了証の交付や、複数の修了証をまとめたカードは法定ではなく、自社で作る場合も記録と一致させる
- 外部講習への委託も可能。その場合も義務者は事業者なので、受講を示す書類を手元に残す
■ 講習のお申込み・ご相談
社内の講師だけでは不安な科目がある、受講者が少なく社内でやるほどではない、という場合はご相談ください。
📞 042-497-8840 に電話して相談する(相談無料・年中無休・7:00〜21:00)
対象の業務・人数・ご希望の時期に合わせて、受講方法とお見積もりをご案内します。
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- 特別教育・技能講習の一覧
- 特別教育と技能講習の違い
■ 参考情報・公式リソース
- 労働安全衛生法 第59条第3項(特別の教育)、第61条第3項(資格を証する書面の携帯)、第119条第1号(罰則):e-Gov法令検索
- 労働安全衛生規則 第37条(特別教育の科目の省略)、第38条(特別教育の記録の保存)、第39条(特別教育の細目):e-Gov法令検索
- 安全衛生特別教育規程(昭和47年9月30日 労働省告示第92号):厚生労働省 法令等データベース
- クレーン取扱い業務等特別教育規程(昭和47年9月30日 労働省告示第118号):厚生労働省 法令等データベース
- 酸素欠乏危険作業特別教育規程(昭和47年9月30日 労働省告示第132号):厚生労働省 法令等データベース
- 昭和48年3月19日 基発第145号「労働安全衛生法関係の疑義解釈について」(厚生労働省審議会資料「労働安全衛生法における特別教育の概要」に抜粋掲載):厚生労働省
