雇入れ時安全衛生教育とは?|カリキュラム・対象者・省略要件を徹底解説!

雇入れ時安全衛生教育は法律で義務付けられた研修ですが、具体的なカリキュラムや対象者の範囲、省略できる条件について正しく理解できていますか?この記事では、人事労務担当者が押さえておくべき教育内容から省略要件、記録保管の義務まで、押さえるべきポイントを網羅的に分かりやすく解説していきます。

そもそも雇入れ時安全衛生教育って何?まずは基本から押さえよう

新しく従業員を雇い入れる際、事業者が必ず実施しなければならないのが「雇入れ時安全衛生教育」です。これは、業種や職種、雇用形態にかかわらず、新しく迎えた従業員が安全に業務を開始し、労働災害に遭うことなく安心して働けるようにするための大切な第一歩となります。

この教育は、単なる研修ではなく、労働安全衛生法という法律で定められた事業者の義務です。これから一緒に働く仲間を守るため、そして健全な職場環境を維持するために、まずはこの教育の基本からしっかりと理解していきましょう。

なぜ必要?法律で定められた事業者の大切な義務

雇入れ時安全衛生教育の実施は、労働安全衛生法第59条第1項および労働安全衛生規則第35条によって事業者に義務付けられています。もしこの教育を実施しなかった場合、法律違反として50万円以下の罰金が科される可能性があります。

しかし、罰則があるから実施するというわけではありません。この教育の最も重要な目的は、労働災害を未然に防ぐことです。業務に潜む危険性や有害性、安全な作業手順、緊急時の対応などをあらかじめ教えることで、従業員自身の安全意識を高め、事故のリスクを最小限に抑えることにつながります。

他の安全衛生教育とは何が違うの?

安全衛生教育には、雇入れ時教育の他にも様々な種類があり、混同してしまう方もいるかもしれません。例えば、特定の危険有害業務に従事する際に必要な「特別教育」や、現場の監督者向けの「職長教育」などがあります。

雇入れ時安全衛生教育は、新しく入社した「全ての労働者」を対象とした、安全衛生に関する基礎的な導入教育です。一方で、特別教育はフォークリフトの運転やアーク溶接など、専門的な知識や技能が求められる特定の業務が対象となります。それぞれ目的と対象者が異なるため、自社でどの教育が必要になるのかを正しく把握しておくことが重要です。

特別教育や技能講習とのより詳しい違いについては、以下の記事も参考にしてください。

特別教育と技能講習の違い|対象業務・取得方法・必要な資格を徹底解説!

教育の対象者は誰?パートやアルバイトも含まれる?

「うちの会社で新しく採用したこの人は、教育の対象になるんだろうか?」と疑問に思う担当者の方もいるかもしれません。結論から言うと、雇入れ時安全衛生教育は、原則として「新しく雇い入れた全ての労働者」が対象となります。

つまり、正社員だけでなく、契約社員、パートタイマー、アルバイトといった雇用形態に関わらず、すべての従業員に対して実施する義務があります。それぞれのケースについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

正社員、契約社員、派遣社員の場合

正社員や契約社員といった直接雇用の従業員は、当然ながら雇入れ時安全衛生教育の対象です。

一方で、注意が必要なのが派遣社員の扱いです。派遣社員の場合、労働契約を結んでいるのは派遣元の事業者です。そのため、雇入れ時安全衛生教育を実施する法律上の義務は、原則として「派遣元」の事業者にあります。

ただし、実際に業務を行うのは派遣先の事業場です。派遣先の機械設備や具体的な作業方法、職場のルールなどについては、派遣元では教育が難しいため、これらに関する教育は「派遣先」が責任を持って実施する必要があります。安全な職場環境のためには、派遣元と派遣先がしっかりと連携することが不可欠です。

パートタイマー・アルバイトの場合

「短時間勤務だから」「簡単な作業しか任せないから」といった理由で、パートタイマーやアルバイトを教育の対象外と考えるのは誤りです。労働安全衛生法において、パートタイマーやアルバイトも「労働者」であり、雇入れ時安全衛生教育の対象からは外れません。

特に、社会人経験が浅い学生アルバイトなどは、業務経験の不足から思わぬ労働災害に巻き込まれるケースも少なくありません。どのような雇用形態であっても、新しく仲間として迎える従業員の安全を守るために、教育を省略することなく確実に実施してください。

具体的に何を教える?法律で決まったカリキュ-ラムをチェック

雇入れ時安全衛生教育で何を教えるべきか、担当者の方が独自に考える必要はありません。教えるべき内容は、労働安全衛生規則第35条第1項によって具体的に定められています。

業種によって多少のアレンジは必要ですが、基本となるのは法律で示されたカリキュラムです。まずは、どのような項目があるのか全体像を把握するところから始めましょう。

必ずおさえておきたい11の教育項目

法律では、雇入れ時の安全衛生教育として、以下の11項目について教育を行うよう定められています。これらは、従業員が安全に働く上で基本となる重要な知識です。

教育項目
1. 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること
2. 動力により駆動される機械の急停止装置、非常停止装置その他その安全装置の機能、取扱い及び点検に関すること
3. 動力プレスの金型、シヤーの刃物又は研削といしの取付け、取替え又は試運転の方法に関すること
4. 作業手順を記載した書面の作成、その書面に基づく作業の方法その他機械等の安全な作業方法に関すること
5. 安全装置、保護具その他労働災害の防止のための設備及びこれらの性能、点検、整備及び使用の方法に関すること
6. 安全衛生を確保するための作業の監視、指示及び報告の系統に関すること
7. 整理、整頓及び清潔の保持並びに作業場の通路及び避難経路の確保に関すること
8. 作業開始時の点検に関すること
9. 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること
10. 事故時等における応急措置及び退避に関すること
11. 上記に掲げるもののほか、労働災害の防止に関し必要な事項

省略が認められている8項目と、省略できない3項目

実は、この11項目すべてを必ず全員に教えなければならない、というわけではありません。一定の知識や経験を持つ労働者に対しては、一部の項目を省略することが認められています。

ただし、どのような経験者であっても、以下の3つの項目は省略することができません。これらは職場の安全衛生の根幹をなす、特に重要な項目だと覚えておきましょう。

省略できない項目

  • 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること
  • 作業開始時の点検に関すること
  • 整理、整頓及び清潔の保持に関すること

上記3項目を除く残りの8項目については、条件を満たせば省略が可能です。とはいえ、誰に対しても無条件で省略できるわけではありません。どのような場合に省略が認められるのか、その具体的な条件については、次の章で詳しく解説していきます。

この教育、省略できるケースもあるってホント?

前の章で、教育項目の一部は省略できるとお伝えしましたが、「それなら、経験者を採用した場合は教育の手間が省けるのでは?」と考える担当者の方もいるかもしれません。確かに、条件を満たせば一部の項目を省略することは法律で認められています。

しかし、この「省略」を安易に判断してしまうのは少し危険です。誰に対して、どの項目を、どのような根拠で省略できるのか。そのルールを正しく理解しておかないと、かえってリスクを高めてしまう可能性もあります。ここでは、省略が認められる具体的な条件と、判断する際の注意点を詳しく見ていきましょう。

省略が認められる具体的な条件とは

労働安全衛生規則第35条第2項では、「労働者が当該業務について十分な知識及び技能を有していると認められるとき」は、関連する教育項目を省略できると定められています。

具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 職務経歴がある: 以前勤めていた会社で、今回担当する業務と全く同じ業務に従事した経験がある。
  • 必要な資格や教育を修了している: 業務に関連する特別教育や技能講習などをすでに受講し、修了証を持っている。

このような経験者を雇い入れた場合、事業者の判断によって、前章で解説した「省略可能な8項目」について教育を省略することが可能です。あくまで、その労働者が業務に関する十分な知識とスキルを持っていると、客観的に判断できることが大前提となります。

ちょっと待って!省略する際の注意点

教育項目の省略は、担当者の業務負担を軽減するメリットがある一方で、いくつかの注意点があります。判断を誤ると、従業員を危険にさらすことになりかねません。

1. 判断基準は客観的に 本人の「経験があります」という自己申告だけを鵜呑みにするのは危険です。職務経歴書を確認したり、面接で具体的な経験内容をヒアリングしたりして、客観的な事実に基づいて判断しましょう。「知っている」と「安全に作業できる」はイコールではありません。

2. 省略できない3項目は必ず実施 何度もお伝えしますが、たとえ豊富な経験を持つベテランであっても、「機械等の危険性」「作業開始時の点検」「整理・整頓・清潔の保持」の3項目は省略できません。会社が違えば、使う機械や道具、職場のルールも異なります。新しい環境での安全を確保するため、この3項目は必ず教育してください。

3. 省略した根拠を記録に残す もし教育項目を省略した場合は、「なぜ省略したのか」その理由を記録として残しておくことが重要です。例えば、「〇〇の業務経験が〇年以上あるため」「△△の資格を保有しているため」といった具体的な根拠を、実施記録とあわせて保管しておきましょう。万が一の際に、事業者が適切な判断を下したことを示す証拠となります。

結論として、教育の省略は慎重に行うべきです。特に安全に関わることなので、基本的には「全員に全項目を実施する」のが最も確実で安全な方法と言えるでしょう。

担当者が知りたい!実施記録とよくある質問

雇入れ時安全衛生教育の目的や内容がわかったところで、最後に人事労務担当者の方が実務を進める上で気になるであろう、記録の保管や細かい疑問について解説します。教育を実施した後の事務処理や、いざという時のために備えて、ポイントをしっかり押さえておきましょう。

教育の実施記録は必要?保管義務について解説

雇入れ時安全衛生教育を実施したら、その記録を作成し、保管しておくことが非常に重要です。法律(労働安全衛生規則)には記録の作成・保管義務が明記されているわけではありませんが、教育を実施したという客観的な証拠を残すために必須の対応と言えます。

万が一、労働基準監督署の調査が入った際に、この記録がなければ教育を実施したことを証明できません。記録がないことで、安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。

記録には、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の教育を行ったのかが分かるように、実施日時、場所、講師名、受講者名、教育項目などを記載しておきましょう。この記録の保管期間に法的な定めはありませんが、関連する他の書類の保管義務(3年)にならって、少なくとも3年間は保管しておくことを強く推奨します。

よくある疑問をQ&Aでスッキリ解消

ここでは、担当者の方から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。

Q1. 教育を行う講師に、特別な資格は必要ですか?

A1. いいえ、雇入れ時安全衛生教育の講師に、法律で定められた特別な資格は必要ありません。社長や工場長、人事労務担当者など、社内の業務内容や設備、安全ルールに精通している方が講師を務めるのが一般的です。もし社内での実施が難しい場合は、専門の教育機関に依頼する方法もあります。 株式会社産業技能センターでは、経験豊富な講師がお客様の事業所へ伺う出張講習も実施していますので、お気軽にご相談ください。

Q2. 教育は、どのくらいの時間をかければ良いのでしょうか?

A2. 法令では、教育の具体的な時間数は定められていません。重要なのは、法律で定められた11項目(省略する場合はその項目を除く)を網羅し、新入社員が内容を十分に理解できることです。一般的には、省略しない場合で合計6時間程度を目安にカリキュラムを組む企業が多いようです。

Q3. 業務が忙しく、なかなか集合研修の時間が取れません。eラーニングで実施しても問題ないですか?

A3. はい、eラーニング(オンライン講習)での実施も可能です。ただし、単に動画を見せるだけでなく、受講者が不明な点をその場で質問できるような体制を整えるなど、効果的な教育とするための要件が厚生労働省から示されています。これらの要件を満たせば、有効な教育として認められます。

Q4. 他にも細かい疑問があるのですが、どこに相談すればいいですか?

A4. 雇入れ時安全衛生教育に関するご不明点や、自社の状況に合わせた実施方法のご相談は、ぜひ株式会社産業技能センターまでお寄せください。よくあるご質問ページもご用意しておりますが、直接のご相談はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

参考URL

労働安全衛生法|e-Gov法令検索 雇入れ時等の安全衛生教育の根拠となる法律です。第59条に事業者の教育義務が定められています。

労働安全衛生規則|e-Gov法令検索 雇入れ時教育で教えるべき具体的な項目や、省略要件について第35条に定められています。

職場のあんぜんサイト:安全衛生教育(雇入れ時等) [安全衛生キーワード]|厚生労働省 厚生労働省が運営するサイトで、雇入れ時安全衛生教育の概要が分かりやすくまとめられています。

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