2026年 労働安全衛生法 改正まとめ|企業が対応すべきポイント一覧

2025年5月14日、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)が公布されました。この改正は2026年1月1日から段階的に施行されており、規模・業種を問わずすべての企業に影響が及ぶ内容を含んでいます。

この記事では、厚生労働省の公表資料をもとに、今回の改正内容を施行スケジュール・企業の対応義務・よくある誤解の観点から正確に整理します。

出典:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要」


目次
  1. 今回の改正の5つの柱
  2. 施行スケジュール一覧
  3. 改正ポイント①:個人事業者等への安全衛生対策の拡大
    1. 何が変わるのか
    2. 企業が対応すべき主な内容
    3. 対応が必要な企業の例
  4. 改正ポイント②:ストレスチェックの全事業場への義務化
    1. 何が変わるのか
    2. 施行時期に注意
    3. 具体的に必要な対応
  5. 改正ポイント③:化学物質管理の強化
    1. ① 個人ばく露測定の義務化(2026年10月1日施行)
    2. ② 新規化学物質の電子申請義務化(2026年7月1日施行)
    3. ③ SDS(安全データシート)通知義務違反への罰則新設(公布後5年以内の政令指定日)
    4. ④ がん原性物質記録の提出義務(2026年1月1日施行)
  6. 改正ポイント④:機械等に関する規制の見直し
    1. ① 技能講習の不正修了証への厳格化(2026年1月1日施行)
    2. ② 特定機械等の検査への民間機関の活用(2026年4月1日施行)
    3. ③ 石綿(アスベスト)事前調査の対象拡大(2026年1月1日施行)
  7. 改正ポイント⑤:高年齢労働者の労働災害防止(2026年4月1日施行)
  8. 関連改正:治療と仕事の両立支援の推進(2026年4月1日施行)
  9. 企業の規模別:特に注意すべきポイント
    1. 従業員50人未満の中小企業
    2. 化学物質を取り扱う事業者
    3. 建設・製造業で個人事業者を活用している企業
  10. よくある誤解と注意点
    1. ❶「うちは小さい会社だから関係ない」は通じない
    2. ❷「フリーランスは自分で安全管理するはず」は誤り
    3. ❸ 施行日が未確定の項目がある
  11. まとめ:今すぐ着手すべき対応チェックリスト
  12. 参考・一次資料

今回の改正の5つの柱

厚生労働省が示す今回の改正の主な内容は以下の5点です。

#改正の柱主な対象
1個人事業者等に対する安全衛生対策の推進一人親方・フリーランスを活用する事業者
2職場のメンタルヘルス対策の推進従業員50人未満の事業場を含む全事業場
3化学物質による健康障害防止対策等の推進化学物質を取り扱う事業者
4機械等による労働災害防止の促進等技能講習・特定機械を扱う事業者
5高年齢労働者の労働災害防止の推進高齢者を雇用するすべての事業者

施行スケジュール一覧

今回の改正は一括施行ではなく、2026年から2029年にかけて段階的に施行されます。対応漏れを防ぐためにスケジュール管理が重要です。

施行日主な改正内容
2025年5月14日(公布日)建設業以外の注文者への配慮義務拡大(施行済み)
2026年1月1日技能講習の不正修了証禁止・回収命令導入/石綿則改正(工作物の事前調査義務化)/がん原性物質記録の労基署提出義務
2026年4月1日個人事業者等への安全衛生措置義務拡大/高年齢労働者の労災防止対策(努力義務)/化学物質の営業秘密配慮導入/一部の機械検査の民間機関への拡大
2026年7月1日新規化学物質の製造・輸入時の電子申請義務化
2026年10月1日有害物質取扱い作業場での個人ばく露測定の義務化
公布後3年以内(政令指定日)従業員50人未満の事業場へのストレスチェック義務化
2027年4月1日個人事業者自身への安全衛生教育受講義務・機械の安全基準遵守義務
公布後5年以内(政令指定日)SDS通知義務違反への罰則新設・変更時の再通知義務化
2029年1月1日個人事業者等の業務上災害の報告義務

※政令指定日については、今後厚生労働省から示される情報を必ずご確認ください。


改正ポイント①:個人事業者等への安全衛生対策の拡大

何が変わるのか

これまで労働安全衛生法の保護対象は**雇用されている「労働者」**に限定されていました。今回の改正により、同じ現場で働く一人親方・フリーランス等の個人事業者も、一定の条件のもとで法の保護対象および義務の主体として位置づけられます。

企業が対応すべき主な内容

2026年4月1日施行:元方事業者の措置義務対象の拡大

複数の事業者が混在する作業場所において、元方事業者(元請け等)が講じるべき安全衛生措置の対象が、自社・下請けの「労働者」だけでなく、個人事業者等を含む「作業従事者」全体に拡大されます。

具体的には以下の措置が必要になります。

  • 危険・有害業務に就く個人事業者等への安全衛生教育の機会提供
  • 混在作業場所での連絡調整・情報提供
  • 安全な作業を妨げる無理な工期・納期を設定しないよう配慮(建設業以外にも拡大・施行済み)

2027年4月1日施行:個人事業者自身の義務

個人事業者自身にも以下が義務付けられます。

  • 構造規格や安全装置を具備しない機械等の使用禁止
  • 特定機械等の定期自主検査の実施
  • 危険・有害業務に就く際の安全衛生教育の受講

対応が必要な企業の例

  • 建設現場で一人親方を活用している元請け企業
  • 製造・物流で業務委託契約を結んでいる個人事業者がいる企業
  • 造園・林業で外注の個人事業者が混在する現場を持つ企業

改正ポイント②:ストレスチェックの全事業場への義務化

何が変わるのか

現在、ストレスチェックの実施義務は従業員50人以上の事業場に課されており、50人未満の事業場は「当分の間、努力義務」とされていました。

今回の改正により、この努力義務規定が撤廃され、従業員数にかかわらずすべての事業場でストレスチェックの実施が義務化されます。

施行時期に注意

施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、現時点(2026年3月)では施行日が確定していません。ただし、準備には一定の時間が必要なため、早期に対応を検討することが推奨されます。

具体的に必要な対応

  • ストレスチェックの実施体制の整備(実施者・産業医等の確保)
  • 高ストレス者への医師による面接指導の体制整備
  • 集団分析・職場環境改善のプロセス構築

国は50人未満の事業場向けに、マニュアルの作成や地域産業保健センター(地さんぽ)の体制拡充を進めています。


改正ポイント③:化学物質管理の強化

① 個人ばく露測定の義務化(2026年10月1日施行)

有害物質を取り扱う作業場において、資格を有する者による個人ばく露測定が義務化されます。従来の作業環境測定(場の測定)から、個人が実際にどの程度ばく露されているかを測定する方法への移行が求められます。

② 新規化学物質の電子申請義務化(2026年7月1日施行)

新規化学物質を製造・輸入する際の届出が、電子申請に一本化されます。従来の紙申請から移行するため、電子申請システムへの対応が必要です。

③ SDS(安全データシート)通知義務違反への罰則新設(公布後5年以内の政令指定日)

化学物質の譲渡・提供時に義務付けられているSDS交付について、義務違反に対する罰則が新たに設けられます。また、通知事項を変更した場合の再通知も義務化されます。

さらに、2026年4月1日から、企業秘密に該当する化学物質については、有害性が低い場合に限り、あらかじめ代替名称を届け出ることでその名称をSDSに記載できるようになります。ただし、人体への影響や応急処置に関する情報は必ず記載しなければなりません

④ がん原性物質記録の提出義務(2026年1月1日施行)

事業者が事業を廃止(会社解散)しようとする場合、がん原性物質に関する30年間保存の対象記録を、所轄の労働基準監督署長へ提出することが義務付けられました。


改正ポイント④:機械等に関する規制の見直し

① 技能講習の不正修了証への厳格化(2026年1月1日施行)

フォークリフトやクレーン等の技能講習において、不正な修了証の交付が禁止され、違反があった場合は修了証の回収命令や資格取得ができない期間の延長などの措置が導入されます。

これは修了証の信頼性向上を目的とした改正であり、適正に運営している機関への影響はありませんが、修了証の取り扱いや管理に関する社内ルールを改めて確認することが推奨されます。

② 特定機械等の検査への民間機関の活用(2026年4月1日施行)

ボイラーやクレーンなどの特定機械に関する一部の検査について、民間の登録機関による実施が可能になります。審査・検査の効率化が期待されます。

③ 石綿(アスベスト)事前調査の対象拡大(2026年1月1日施行)

建築物・船舶に加え、工作物を解体・改修等する場合にも、資格者による石綿の事前調査が義務化されます。また、事前調査を実施した者の氏名や資格証明書の写しを調査終了日から3年間保存することが義務付けられます。


改正ポイント⑤:高年齢労働者の労働災害防止(2026年4月1日施行)

高齢労働者の増加にともない、事業者に対して高年齢労働者の特性に配慮した安全衛生対策が努力義務として課されます。

具体的には、以下のような対応が求められます。

  • 高齢者の身体機能の変化(視力・反射速度・筋力の低下等)を考慮した作業環境の見直し
  • 転倒・墜落防止のための設備・作業管理の改善
  • 熱中症など体温調節機能の低下を踏まえた暑熱対策

努力義務であるため罰則はありませんが、厚生労働省が定める指針(エイジフレンドリーガイドライン)に基づいた取り組みが推奨されています。


関連改正:治療と仕事の両立支援の推進(2026年4月1日施行)

今回の労働安全衛生法改正と同時期に、関連する法律の改正として「治療と仕事の両立支援の推進」が事業者の努力義務として位置づけられました。

がん・脳卒中などの疾病を抱える労働者が治療を継続しながら働けるよう、事業者は国の指針に基づいた取り組みを行うことが求められます。安全衛生担当者はメンタルヘルス対応と合わせて確認しておくことを推奨します。


企業の規模別:特に注意すべきポイント

従業員50人未満の中小企業

優先度対応内容施行時期
★★★ストレスチェック実施体制の整備公布後3年以内(政令指定日)
★★☆個人事業者活用時の安全管理体制の見直し2026年4月1日〜
★★☆高齢労働者への安全対策(努力義務)2026年4月1日〜

化学物質を取り扱う事業者

優先度対応内容施行時期
★★★個人ばく露測定の実施体制整備2026年10月1日
★★★SDSの通知体制・変更時の再通知フロー構築公布後5年以内
★★☆新規化学物質の電子申請対応2026年7月1日

建設・製造業で個人事業者を活用している企業

優先度対応内容施行時期
★★★個人事業者等への安全衛生教育の機会提供2026年4月1日
★★★工期・納期の設定における配慮義務の確認施行済み
★★☆混在作業場所での連絡調整体制の整備2026年4月1日

よくある誤解と注意点

❶「うちは小さい会社だから関係ない」は通じない

ストレスチェックの義務化や個人事業者への安全配慮義務は、企業規模を問わず適用されます。特に個人事業者を活用している企業は、規模にかかわらず対応が必要です。

❷「フリーランスは自分で安全管理するはず」は誤り

今回の改正の核心は、発注者・元方事業者側にも個人事業者への安全配慮義務が生じるという点です。「委託先だから関係ない」という認識は改正後には通用しません。

❸ 施行日が未確定の項目がある

ストレスチェックの全事業場義務化やSDS違反への罰則は、「政令で定める日」とされており現時点では施行日が確定していません。最新情報は厚生労働省の公式ページで随時確認してください。


まとめ:今すぐ着手すべき対応チェックリスト

  • 一人親方・フリーランスが混在する現場の安全管理体制を見直す(2026年4月1日〜)
  • 工期・納期の設定に無理がないか確認する(施行済み)
  • ストレスチェックの実施体制を50人未満の事業場も含めて準備する
  • 化学物質を扱う現場で個人ばく露測定の実施準備を進める(2026年10月〜)
  • SDSを交付している場合、変更時の再通知フローを整備する
  • 石綿の事前調査:工作物の解体時の対応を確認する(2026年1月1日〜)
  • 技能講習修了証の管理・取り扱いルールを確認する(2026年1月1日〜)
  • 高年齢労働者への安全対策指針(エイジフレンドリーガイドライン)を確認する

参考・一次資料

本記事は以下の厚生労働省公表資料をもとに作成しています。

法令の詳細・最新の政令施行日については、必ず厚生労働省の公式ページでご確認ください。


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