外国人労働者への安全衛生教育|義務・言語対応・実施方法を解説

外国人労働者を雇用している、または雇用を検討している事業者から「日本語で安全教育をすれば義務は果たせる?」「母国語での対応は必須?」という質問が増えています。
結論から言えば、外国人労働者への安全衛生教育は日本人と同じく法令で義務付けられており、かつ「内容を理解できる方法」で実施しなければなりません。日本語のみの教育が安全配慮義務違反と判断されたケースもあります。
この記事では、厚生労働省の通達・指針をもとに、外国人労働者への安全衛生教育の義務・言語対応の考え方・活用できる無料教材まで正確に解説します。
外国人労働者にも安全衛生教育は義務か
答え:国籍・在留資格にかかわらず義務
労働安全衛生法は、雇用されているすべての労働者を対象とします。国籍や在留資格の種類は関係ありません。
| 法令上の義務 | 根拠条文 | 対象 |
|---|---|---|
| 雇入れ時安全衛生教育 | 労働安全衛生法第59条第1項 | すべての労働者(外国人含む) |
| 作業内容変更時の安全衛生教育 | 労働安全衛生法第59条第2項 | すべての労働者(外国人含む) |
| 特別教育 | 労働安全衛生法第59条第3項 | 危険・有害業務に従事するすべての労働者 |
| 職長教育 | 労働安全衛生法第60条 | 職長に選任されるすべての者 |
技能実習生・特定技能・派遣・アルバイトを問わず、日本で就労するすべての外国人労働者が対象です。
「日本語で実施すれば義務を果たしたことになるか」問題
厚生労働省の立場
厚生労働省は、「外国人労働者に対する安全衛生教育の推進等について」(平成3年1月29日基発39号、最終改訂:平成31年3月28日基発0328第28号)において、以下のように明記しています。
外国人労働者に対し安全衛生教育を実施するに当たっては、当該外国人労働者の母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を確実に理解できる方法により行うこと。
また、厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」においても同様の内容が定められています。
ポイントは「方法」ではなく「理解できたか」が問われている点です。日本語で実施すること自体が禁止されているわけではありませんが、内容が理解されていなければ義務を果たしたとは言えません。
日本語のみの教育が安全配慮義務違反になったケース
外国人労働者に対して日本語のみで安全教育を実施し、内容が十分に理解されていなかった状況で労働災害が発生した場合、裁判で事業者の安全配慮義務違反(民法第415条、労働契約法第5条)が認定されたケースがあります。
「形式上は実施した」だけでは不十分であり、「内容が確実に理解されるよう努めた」かどうかが問われます。
外国人労働者の労働災害の現状
厚生労働省の調査によると、外国人労働者の労働災害による死傷者数(休業4日以上)は年々増加しています。
| 年 | 外国人労働者の死傷者数 |
|---|---|
| 2021年 | 4,577人 |
| 2022年 | 4,808人 |
| 2023年 | 5,672人 |
| 2024年 | 6,244人 |
出典:厚生労働省「外国人労働者の安全衛生管理」
厚生労働省は労働災害増加の主な要因として以下を挙げています。
- 業務経験が短い未熟練者が多い
- 日本語そのものの理解が不十分
- コミュニケーション不足による危険情報の伝達・理解の不足
安全衛生教育の内容を確実に理解させることが、外国人労働者の労働災害防止において特に重要です。
外国人労働者への安全衛生教育:実施のポイント
① 「理解できる方法」で実施する
以下のような工夫が厚生労働省の通達・指針で推奨されています。
| 対応方法 | 具体例 |
|---|---|
| 母国語または理解できる言語を使用 | 翻訳済み教材・通訳者の活用 |
| 視聴覚教材の活用 | 図解・動画・マンガ形式の教材 |
| 図解・絵による表示 | 文字が読めなくても伝わる教材 |
| 危険標識の多言語・図解表示 | 現場の安全表示を母国語や図解で補足 |
| 同国籍の先輩労働者を活用 | 通訳・補助役として教育に参加させる |
② 理解度の確認を行う
教育を「実施した」だけでなく、内容が理解されているかを確認することが重要です。
- 「わかりましたか?」という質問だけでは不十分(「はい」と答える傾向がある)
- 教育内容を労働者自身が説明できるかを確認する方法が推奨されています
- 理解度テストの活用も有効です
③ 基本的な日本語・合図を習得させる
厚生労働省の指針では、「危険」「止まれ」「逃げろ」等の安全に関わる基本的な日本語や合図を習得させるよう努めることも求めています。緊急時の指示が伝わることは最低限必要です。
④ 記録は通常どおり3年間保存
外国人労働者への特別教育も、実施記録(受講者名・日時・科目・時間数・講師名)を3年間保存する義務があります(労働安全衛生規則第38条)。修了証も同様に発行・保管が必要です。
在留資格別の注意点
外国人労働者の在留資格によって、就労可能な業務の範囲が異なります。安全衛生教育の義務自体は共通ですが、以下の点に注意してください。
| 在留資格 | 主な特徴と注意点 |
|---|---|
| 技能実習 | 監理団体・実習実施者の双方に安全衛生管理義務あり。実習計画に基づく教育が必要 |
| 特定技能 | 1号は登録支援機関による支援が入る場合あり。安全教育は雇用事業者の責任 |
| 技術・人文知識・国際業務等 | 通常の労働者と同様。従事する業務に応じた特別教育が必要 |
| 派遣労働者(外国人) | 特別教育は派遣先の責任(労働安全衛生法第59条) |
技能実習生への教育は実習実施者の責任
技能実習生への安全衛生教育は実習実施者(受入企業)の義務です。監理団体が関与する場合でも、教育の実施責任は受入企業にあります。
活用できる無料教材(厚生労働省提供)
厚生労働省は、外国人労働者向けの安全衛生教育教材を無料で公開しています。費用をかけずに活用できるため、ぜひ確認してください。
マンガでわかる働く人の安全と健康(視聴覚教材)
対応言語:11言語(日本語・英語・中国語・ベトナム語・タガログ語・クメール語・インドネシア語・タイ語・ミャンマー語・ネパール語・モンゴル語)
業種共通と8業種別の教材が用意されており、マンガ形式で安全標識の読み方や基本的な安全行動を学べます。日本語が不得意な方でも理解しやすい形式です。
公開先:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」
未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル
対応言語:英語・中国語・スペイン語・ポルトガル語
製造業・陸上貨物運送事業・商業など業種別の教材です。雇入れ時・作業内容変更時の安全衛生教育に活用できます。
外国人建設就労者向け安全衛生教育教材
対応言語:英語・中国語・ベトナム語・インドネシア語
建設業向けに特化した映像教材とテキスト教材が用意されています。建設業の基礎安全知識と災害事例を学べます。
技能講習の補助教材(多言語版)
主要な技能講習(フォークリフト・玉掛け等)について、外国語の補助テキストや講習用資料が用意されています。
公開先:厚生労働省ホームページ(登録教習機関向けページ)
注意:既成教材の無断翻訳・配布は著作権上の問題が生じる場合がある
社内向けであっても、既存の安全衛生教材を企業が独自に翻訳して多数配布することは、著作権法に抵触する可能性があります。厚生労働省がウェブサイトで公開している教材は自由に使用できるため、まずそちらを活用してください。
よくある誤解と正しい理解
❶「日本語で教育すれば法的義務は果たせる」
形式的に実施しても、内容が理解されていなければ義務を果たしたとは言えません。労働災害が発生した場合、「日本語で実施したが理解されていなかった」という状況は安全配慮義務違反に問われるリスクがあります。
❷「母国語での教育は義務ではないからやらなくていい」
母国語での実施が「法律で明示的に義務付けられているわけではない」のは事実ですが、「内容を確実に理解できる方法で実施する」ことは厚生労働省の通達・指針で求められています。これを怠り労働災害が発生した場合の民事上のリスクは大きくなります。
❸「特別教育は日本人と同じ内容・方法でいい」
実施する内容・科目・時間数は日本人と同じですが、理解させるための方法・工夫が外国人労働者には追加で必要です。
❹「通訳がいれば問題ない」
通訳を活用することは有効な方法ですが、通訳者が安全上の正確な内容を伝えられるかも確認が必要です。また、緊急時に通訳がいない状況でも基本的な安全指示が伝わるよう、日常的なコミュニケーション体制の整備が求められます。
現場の安全表示・標識の多言語対応
安全衛生教育と合わせて、現場内の安全表示・標識の多言語対応も求められています。
厚生労働省の通達では以下を推奨しています。
- 労働災害防止に関する標識・掲示・表示について、図解を用いる・母国語で注意喚起語を表示する等、外国人労働者が理解できる方法とすること
- 「危険」「高電圧」「立入禁止」等の安全標識は、文字だけでなく図解や多言語表示を加えること
まとめ:外国人労働者への安全衛生教育チェックリスト
- 雇い入れたすべての外国人労働者への雇入れ時安全衛生教育を実施しているか(国籍・在留資格問わず)
- 危険・有害業務に従事させる前に特別教育を実施しているか
- 教育を「理解できる方法」(母国語・視聴覚教材等)で実施しているか
- 理解度の確認(説明させる・テスト等)を行っているか
- 緊急時の基本的な日本語・合図を習得させているか
- 厚生労働省の無料多言語教材を活用しているか
- 現場の安全標識・掲示を図解・多言語対応にしているか
- 教育の実施記録を3年間保存しているか
- 派遣の外国人労働者への教育が派遣先として実施されているか
外国人労働者の労働災害は年々増加しています。「日本語で実施した」という形式的な対応ではなく、内容が確実に伝わり理解された状態をつくることが、企業の義務であり労働者の命を守ることにつながります。
産業技能センターでは、雇入れ時安全衛生教育・特別教育を50科目以上カバーしています。外国人労働者を含む従業員への教育対応についてのご相談も承っております。Web講習・出張講習・会場講習に対応しており、8,000円〜(教材費・修了証込み)です。
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