フルハーネス(フルハーネス型墜落制止用器具)とは、肩・腰・腿のベルトで体を支え、墜落したときの衝撃を分散して体を止める器具です。2019年(平成31年)2月1日から適用された「墜落制止用器具の規格」(平成31年厚生労働省告示第11号)により、墜落制止用器具はフルハーネス型が原則となり、高さ6.75mを超える箇所では胴ベルト型を使えなくなりました。
この記事は、現場でフルハーネスを「選ぶ・着ける・掛ける・点検する・捨てる」ための使用マニュアルです。規格と「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」(平成30年6月22日付け基発0622第2号)、労働安全衛生規則の関係条文(第518条〜第521条など)に沿って、会社として決めておくことを整理します。特別教育の科目・時間や受講しないときの罰則は、別の記事で詳しく解説しています。
ご不明点はよくある質問、個別のご相談は問い合わせページからどうぞ。
■ この記事でわかること
- 新規格(告示第11号)で変わった点と、旧規格品が使えなくなった時期
- フルハーネス型と胴ベルト型の使い分け(6.75m・5mの目安)
- 第一種・第二種ショックアブソーバと最大質量の選び方
- 取付設備・フックの掛け方と、点検・廃棄の基準
- 事業者に義務づけられた措置(安衛則第518条〜第521条・第194条の22)
■ フルハーネスの規格と使い方の早見表
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 規格 | 墜落制止用器具の規格(2019年2月1日適用) | 平成31年厚生労働省告示第11号 |
| 名称 | 「安全帯」から「墜落制止用器具」に変更(現場で「安全帯」と呼ぶことは差し支えない) | 労働安全衛生法施行令 第13条第3項第28号/厚生労働省リーフレット |
| 原則の型 | フルハーネス型。地面に到達するおそれがある場合に限り胴ベルト型(一本つり)も可 | 告示第11号/基発0622第2号 |
| 6.75m | 6.75mを超える箇所ではフルハーネス型を使用 | 告示第11号/基発0125第2号 |
| 5m | 建設作業等では、胴ベルト型が使える高さの目安は5m以下 | 基発0622第2号 |
| 旧規格品 | 2022年1月1日で使用できる期間が終了 | 告示第11号の経過措置 |
| 点検 | 日常点検に加え、定期点検の間隔は半年を超えない | 基発0622第2号 第6 |
| 廃棄 | 一度でも落下時の衝撃がかかったものは使用しない | 基発0622第2号 第7 |
| 特別教育 | 作業床を設けることが困難な高さ2m以上の箇所でフルハーネス型を用いる作業は、学科4.5時間・実技1.5時間 | 労働安全衛生規則 第36条第41号/安全衛生特別教育規程 第24条 |
■ 新規格(平成31年告示第11号)で変わったこと
2019年2月1日、「安全帯の規格」が全部改正され、「墜落制止用器具の規格」になりました(平成31年1月25日告示、基発0125第2号)。名称・型・構造の要件がそろって変わったため、手持ちの器具がどちらの規格品かを確認することが、使い方の出発点になります。
▶ 「安全帯」は「墜落制止用器具」に
結論として、法令上の名称は「墜落制止用器具」に変わりました(労働安全衛生法施行令 第13条第3項第28号)。労働安全衛生規則では、作業に応じた性能を持つものを「要求性能墜落制止用器具」と呼びます(墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具。第130条の5ほか)。厚生労働省のリーフレットでは、現場で「安全帯」などの従来の呼び方を使うことは差し支えないとされています。
▶ U字つり用胴ベルトは墜落制止用器具に含まれない
結論から、柱上作業などで体を支えるU字つりの胴ベルトは、墜落制止用器具ではありません(厚生労働省リーフレット)。U字つりのようなワークポジショニング用器具を使う作業では、墜落したときのバックアップとして墜落制止用器具を併用する必要があります(基発0622第2号 第4の3)。
▶ 旧規格品は2022年1月1日で使用期間が終了
結論として、旧規格(安全帯の規格)にもとづく器具を使えたのは2022年1月1日までです(告示第11号の経過措置、厚生労働省リーフレット)。現在は新規格に適合した器具を使う必要があります。倉庫に残っている古い器具は、ラベルの表示で規格を確かめ、旧規格品であれば現場に出さないよう区分しておきましょう。
■ フルハーネス型と胴ベルト型の使い分け(6.75m・5m)
使い分けの考え方は「墜落を止めたとき、体が地面に届いてしまわないか」です。高い位置ほどフルハーネス型が必要で、低い位置では胴ベルト型の方が地面に届きにくい場合があります。
▶ 6.75mを超える箇所はフルハーネス型
結論として、高さ6.75mを超える箇所ではフルハーネス型を使わなければなりません(告示第11号、基発0622第2号 第4の1)。6.75mは、ショックアブソーバの自由落下距離4.0mと伸び1.75mに、1mを加えた値です(基発0125第2号)。胴ベルト型(一本つり)を使えるのは、フルハーネス型では墜落時に地面に到達するおそれがある場合に限られます。
▶ 建設作業等の目安は5m
結論から、建設作業等では胴ベルト型を使える高さの目安を5m以下とすべきとされています(基発0622第2号 第4の2(4))。これは建設作業等でのフルハーネス型の一般的な使用条件を想定した目安です。5mを超え6.75m以下の箇所でも、原則どおりフルハーネス型を選ぶのが基本です。
| 作業箇所の高さ | 使用する型 | 根拠 |
|---|---|---|
| 6.75mを超える | フルハーネス型(胴ベルト型は不可) | 告示第11号/基発0622第2号 第4の1 |
| 6.75m以下 | フルハーネス型が原則。フルハーネス型では地面に到達するおそれがある場合は胴ベルト型(一本つり)も可 | 同上 |
| 建設作業等の目安 | 胴ベルト型が使える高さの目安は5m以下 | 基発0622第2号 第4の2(4) |
■ フルハーネスの選び方
ガイドラインは、ショックアブソーバの最大自由落下距離や使用可能な最大質量などを事前に確認し、作業内容・作業箇所の高さ・作業者の体重に応じて器具を選ぶよう求めています(基発0622第2号 第4の1)。メーカー名やデザインより先に、次の3点を製品の表示で確認します。
▶ 第一種・第二種ショックアブソーバの選び方
結論として、フックを腰の高さ以上に掛けられるなら第一種、足元に掛ける必要があるなら第二種を選びます(基発0622第2号 第4の2(1))。鉄骨の組立てなど、足元にしかフックを掛けられない作業では第二種が必要です。
| 種別 | 性能(自由落下距離/衝撃荷重) | 選ぶ場面 |
|---|---|---|
| 第一種ショックアブソーバ | 自由落下距離1.8mで墜落を制止したときの衝撃荷重が4.0kN以下 | 腰の高さ以上にフック等を掛けて作業できる場合 |
| 第二種ショックアブソーバ | 自由落下距離4.0mで墜落を制止したときの衝撃荷重が6.0kN以下 | 足元にフック等を掛けて作業する必要がある場合 |
▶ 使用可能な最大質量(85kgまたは100kg)
結論から、器具には使用可能な最大質量(85kgまたは100kg。特注品を除く)が定められており、着用者の体重と装備品の質量の合計がこれを超えないものを選びます(基発0622第2号 第4の2(3))。工具や腰袋を含めた重さで考えるのがポイントです。規格では、この最大値をショックアブソーバに表示することになっています(基発0125第2号)。
▶ 落下距離と地面までの余裕
結論として、墜落を止めるまでに体が落ちる距離(落下距離)が、作業箇所から地面や下の構造物までの距離より短いことを確認します。ガイドラインでは、落下距離は自由落下距離にランヤードやフルハーネスの伸び等を加えたもの、自由落下距離はランヤードを接続する部分の高さから取付設備の高さを引き、ランヤードの長さを加えたものとされています(基発0622第2号 第3の1)。取付設備が低いほど、またランヤードが長いほど落下距離は長くなります。
【実務ポイント】
おすすめのメーカー・モデルを決める前に、①作業箇所の高さ、②フックを掛けられる位置(腰より上か足元か)、③着用者の体重と装備品の合計、の3つを作業ごとに書き出してください。これが決まれば、製品の表示(ショックアブソーバの種別・自由落下距離の最大値・使用可能な最大質量)から、該当する製品を絞り込めます。サイズや装着感は、メーカーの取扱説明書とサイズ表で確認します。
■ フルハーネスの正しい使い方
器具を正しく選んでも、着け方と掛け方を誤れば墜落を止められません。装着・調整の細かな手順は製品ごとに異なるため、取扱説明書に従ったうえで、次の原則を守ります。
▶ 取付設備はできるだけ高い位置に
結論として、フック等を掛ける取付設備は、できるだけ高い位置のものを選びます(基発0622第2号 第5の1(3))。高い位置に掛けるほど自由落下距離が短くなり、衝撃も地面到達のおそれも小さくなります。ワークポジショニング作業では、取付設備は原則として頭上の位置のものを選びます。
▶ 移動時は二丁掛けで常に1本を掛けておく
結論から、掛け替えが必要な移動では、2つのフック等を交互に使う二丁掛けが望ましいとされています(基発0622第2号 第4の2(2))。1本を掛けたまま、もう1本を次の取付設備に掛けてから外せば、掛け替えの瞬間も無防備になりません。また、ランヤードを構造物に巻き付けてフックを掛ける「回し掛け」は、できるだけ避けることとされています(同 第5の1(5))。
▶ 使用前に確認したいこと
- ラベルで新規格品であること、ショックアブソーバの種別と最大質量を確認した
- ベルト・縫い糸・金具・ランヤードに摩耗・損傷・変色がないことを確認した
- 取扱説明書に沿って、肩・胸・腿のベルトを体に合わせて調整した
- 作業場所に、フックを掛けられる取付設備(親綱・アンカー等)があることを確認した
- 作業箇所の高さから、落下距離で地面に届かないことを確認した
■ フルハーネスの点検・保管・廃棄
フルハーネスは繊維製品で、使うほど劣化します。ガイドラインは、点検・保守・保管・廃棄の基準を定めています(基発0622第2号 第6・第7)。
▶ 定期点検は半年を超えない間隔で
結論として、点検は責任者を決めて記録を残し、日常点検に加えて、半年を超えない間隔で定期点検を行います(基発0622第2号 第6)。ベルトや縫い糸、金具、ランヤード、巻取り器などの摩耗・損傷・変色を確認します。あわせて、労働安全衛生規則 第521条第2項は、器具と取付設備等の異常の有無を事業者が随時点検することを求めています。
▶ 保守と保管
結論から、汚れは洗浄して陰干しし、直射日光・湿気・火気や熱源・腐食性物質を避けて保管します(基発0622第2号 第6)。ランヤードは寿命が最も短い部品とされ、摩耗したら交換します。パッケージ製品を分解して他社の部品と組み合わせることは行わないこととされています。
▶ 廃棄の基準
結論として、一度でも落下時の衝撃がかかった器具は使いません(基発0622第2号 第7)。点検で異常が見つかったもの、摩耗や傷などの劣化が激しいものも同様です。使用年数の目安はメーカーごとに示されているため、取扱説明書で確認し、社内の交換ルールに反映します。
■ 事業者に義務づけられた墜落防止の措置
フルハーネスは「作業床や手すりを設けられないとき」に使う最後の備えです。労働安全衛生規則は、まず作業床・囲い等を設け、それが困難なときに防網や要求性能墜落制止用器具を使わせるという順序で措置を定めています。
| 条文 | 主な内容 |
|---|---|
| 労働安全衛生規則 第518条 | 高さ2m以上の箇所で墜落のおそれがあるときは作業床を設ける。困難なときは防網を張り、要求性能墜落制止用器具を使用させる等の措置を講じる |
| 労働安全衛生規則 第519条 | 高さ2m以上の作業床の端・開口部等には囲い・手すり・覆い等を設ける。著しく困難なときや臨時に取り外すときは、防網を張り、要求性能墜落制止用器具を使用させる等の措置を講じる |
| 労働安全衛生規則 第520条 | 労働者は、使用を命じられたときは要求性能墜落制止用器具等を使用する |
| 労働安全衛生規則 第521条 | 高さ2m以上の箇所で器具を使用させるときは、安全に取り付けるための設備等を設け、器具と取付設備等の異常の有無を随時点検する |
| 労働安全衛生規則 第194条の22 | 高所作業車(作業床が垂直にのみ昇降する構造のものを除く)を用いて作業するときは、作業床上の労働者に要求性能墜落制止用器具等を使用させる |
| 労働安全衛生規則 第130条の5 | 食品加工用粉砕機・混合機の開口部からの転落防止。蓋・囲い・柵等を設けることが困難な場合に、要求性能墜落制止用器具を使用させる等の措置 |
【違反リスク】
作業床や囲い等を設けず、要求性能墜落制止用器具も使用させなかった事案は、労働安全衛生法 第21条第2項・労働安全衛生規則 第519条第1項違反として、同法 第119条第1号(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)により送検された例があります(山形労働局 公表事案)。フルハーネス特別教育を行わずに作業させた場合の罰則は、フルハーネス特別教育を受けないとどうなる?で解説しています。
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■ フルハーネス特別教育との関係
器具の使い方を学ぶ公的な教育が、フルハーネス型墜落制止用器具特別教育です。対象になるのは、フルハーネスを着けるすべての人ではありません。
▶ 特別教育が必要な作業
結論として、高さ2m以上で作業床を設けることが困難な箇所において、フルハーネス型を用いて行う作業が対象です(労働安全衛生規則 第36条第41号、ロープ高所作業に係る業務を除く)。内容は学科4科目4.5時間と実技1.5時間の合計6時間です(安全衛生特別教育規程 第24条)。作業床のある箇所での作業や、高所作業車のバスケット内の作業は、通常は特別教育の義務付けの対象になりません(厚生労働省「墜落制止用器具に係る質疑応答集」)。対象の線引き・省略条件・受け方はフルハーネス特別教育とはで詳しく整理しています。
▶ 「6.75m」と特別教育の条件は別
結論から、6.75mは「どの型を使うか」の基準で、特別教育が必要かどうかは「2m以上・作業床の設置が困難・フルハーネス型を使用」の条件で決まります。たとえば高さ3mで作業床がなく、フルハーネス型を使う作業は特別教育の対象です。2つの基準を混同しないよう、社内の手順書では分けて書いておきましょう。
■ フルハーネスのよくある質問
▶ Q. フルハーネスに法律上の使用期限はありますか?
A. ガイドラインは年数ではなく、落下の衝撃を受けたもの・点検で異常があったもの・劣化が激しいものを使わないという廃棄基準を定めています(基発0622第2号 第7)。使用年数の目安はメーカーの取扱説明書で確認してください。
▶ Q. 高所作業車ではフルハーネスが必要ですか?
A. 作業床が垂直にのみ昇降する構造のものを除き、高所作業車の作業床上の労働者には要求性能墜落制止用器具等を使用させる必要があります(労働安全衛生規則 第194条の22)。型の選び方は6.75mの基準に従います。高所作業車の運転には別途、高所作業車運転特別教育などが必要です。
▶ Q. 現場で「安全帯」と呼んでも問題ありませんか?
A. 厚生労働省のリーフレットでは、現場で「安全帯」などの従来の呼称を使うことは差し支えないとされています。ただし、器具そのものは新規格に適合したものを使う必要があります。
▶ Q. 体重が100kgを超える場合はどうすればよいですか?
A. 体重と装備品の合計が最大質量(85kgまたは100kg)を超える場合、標準品は使えません。ガイドラインは特注品を除いて最大質量を示しているため、メーカーに対応品の有無を問い合わせてください。
■ まとめ
フルハーネスは、2019年2月1日適用の新規格(平成31年厚生労働省告示第11号)で墜落制止用器具の原則の型となり、6.75mを超える箇所では必ず使う器具です。選ぶときは作業箇所の高さ・フックの位置・体重と装備品の合計から、ショックアブソーバの種別と最大質量を決めます。使うときは取付設備をできるだけ高くし、二丁掛けで常に1本を掛け、半年を超えない間隔の定期点検と廃棄基準で状態を管理します。作業床や手すりを設けることが先で、器具はそれが困難なときの備えであることも、社内の手順書に明記しておきましょう。
■ 関連する特別教育・安全衛生教育
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■ 参考情報・公式リソース
| サイト名 | 概要 | リンク |
|---|---|---|
| e-Gov法令検索|労働安全衛生規則 | 第36条・第130条の5・第194条の22・第518条〜第521条の条文 | 公式サイト |
| 厚生労働省|墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン | 基発0622第2号(平成30年6月22日)。選定・使用・点検・廃棄 | 公式サイト |
| 厚生労働省|安全帯が「墜落制止用器具」に変わります(リーフレット) | 改正の概要リーフレット(2019年1月) | 公式サイト |
| 厚生労働省|墜落制止用器具に係る質疑応答集 | 特別教育の対象・作業床の考え方 | 公式サイト |
| 厚生労働省|安全衛生特別教育規程 | 第24条(フルハーネス型の特別教育の科目・時間) | 公式サイト |
| 山形労働局|労働安全衛生法違反の公表事案 | 墜落防止措置の未実施による送検事例 | 公式サイト |
| 厚生労働省|職場のあんぜんサイト | 墜落・転落災害の事例と対策 | 公式サイト |
