建設業のAI活用は、カメラ映像から危ない行動を見つける安全管理、配筋などの検査の自動化、生成AIによる書類や施工計画の下書き、建設機械の自動運転などで、実際の現場に入り始めています。たとえば鹿島建設は、AI配筋検査で鉄筋籠1基あたりの発注者の立会検査時間を約300分から約100分に短縮したと発表しています(2026年9月)。
一方で、AIを入れても労働安全衛生法で事業者に義務づけられた危険防止の措置や特別教育はなくなりません。建設会社の経営者・現場責任者・安全担当の方に向けて、各社の公式発表と国土交通省の資料、法令の条文(いずれも2026年11月4日に確認)をもとに、AI活用の実例、国の方針、導入するときの法令・個人情報の注意点を整理しました。
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■ この記事でわかること
- 建設業でAIが使われている5つの分野と、各社の公式発表にもとづく実例
- 国土交通省の方針(i-Construction 2.0、2026年9月の「AI実装に向けた取組方針」)
- 生成AIをKY活動や書類づくりに使うときのコツと注意
- AIを入れても変わらない法令上の義務(安衛法 第20条・第59条、安衛則 第158条など)
- カメラ映像を扱うときの個人情報の注意点と、導入の進め方
■ 建設業のAI活用の早見表
| 分野 | AIでできること | 実例(公式発表) |
|---|---|---|
| 安全管理 | カメラ映像から不安全行動(吊り荷の下への立入り、重機への接近、保護具の未着用など)を検知する/生成AIが作業前の危険と対策を示す | セーフィー「Ailytics(SF)」(2026年7月本格提供)、長谷工「ゲンバノメ」(2025年9月) |
| 検査・確認 | 画像から鉄筋の本数・径・間隔を計測し、立会いの時間を減らす | 鹿島建設 移動式AI配筋検査(2026年9月)、大林組 AI配筋自動検査(2024年5月) |
| 書類・計画 | 生成AIが施工計画書などの下書きを作る | 大成建設 全体施工計画書作成支援(2025年11月) |
| 気象・揚重 | 機械学習で高所の風速・風向を予測し、クレーン作業の判断に使う | 竹中工務店「ソラビュー」(2025年10月) |
| 施工の自動化 | センサーデータからAIが機械を制御する/建機の作業内容を自動で分類する | 大成建設 シールドマシン自動運転(2026年7月・実証)、鹿島建設・pluszero(2026年1月) |
■ 国の方針:2026年度は「AI活用」が重点
▶ i-Construction 2.0とAI
結論として、国土交通省はi-Construction 2.0で、人の手作業をAIなどで自動化する方向を示しています。i-Construction 2.0(2024年4月策定)は、2023年度と比べて2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、生産性を1.5倍以上にすることをめざす計画で、本文には「これまで人が手作業で実施している内容をAIやシステムを活用して自動化」するといった記述があります。2026年4月には、3年目の2026年度を「i-Construction 2.0 躍動の年」とし、「AI活用」をキーワードの一つに掲げました。i-Construction 2.0の全体像は建設DXとはで解説しています。
▶ AI実装に向けた取組方針(2026年9月)
結論として、国土交通省はAIを「現場で働く人の能力を拡張させ生産性向上を加速する基盤」と位置づけています。2026年8月26日に策定され、9月4日に公表された「国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」は、人とAIが協働することを基本的な考え方としています。あわせて、この方針に基づく「建設分野におけるフィジカルAI戦略」(中間とりまとめ)も公表され、建設現場へのフィジカルAI(機械を動かすAI)導入の方向性が示されました。
■ 安全管理のAI活用事例
▶ カメラで不安全行動を検知する
結論として、現場のカメラ映像から5種類の不安全行動を自動で検知するサービスが、2026年7月に本格提供されています。セーフィー株式会社の「Ailytics(SF)」は、吊り荷下検知・立入検知・重機近接検知・装備品未着用検知・速度超過検知の5種類を検知します(2026年7月24日発表)。本格提供の前に、九州旅客鉄道(61日間)と大林組(120日間)の現場で実証が行われました。
重機に人が近づいたときの対策では、大林組が、重機に付けた複数のカメラで作業員を認識し、接近を検知すると警報を出し、さらに近づくと重機を強制的に停止させる安全装置「クアトロアイズ」を紹介しています(2018年7月に開発を発表)。
▶ 生成AIで作業前の危険を洗い出す
結論として、生成AIが現場の写真や作業内容から、想定されるリスクと対策を示す使い方が始まっています。長谷工コーポレーションの「ゲンバノメ」は、工種・作業内容・天候・気温を入力して作業現場の写真をアップロードすると、生成AIが想定されるリスクと対策を示します。2025年8月時点で、同社が首都圏で手掛けるすべての現場(129カ所)に採用されています(2025年9月9日発表)。
NECと住友重機械工業は、油圧ショベルの映像やセンサーのデータからAIが危ない場面を抜き出し、ヒヤリハットのレポートを自動で作るシステムについて、2026年4月から共同開発を始め、2027年度の実用化をめざすと発表しています(2026年3月25日発表)。
▶ 風を予測してクレーン作業を安全に
結論として、AIで高所の風速・風向を予測し、タワークレーンの揚重作業の判断に使う例があります。竹中工務店の「ソラビュー」は、レーザー(ドップラーライダー)の観測値と気象データを使い、機械学習をしたAIで10〜60分後と2〜8時間後の風を予測します(2025年10月14日発表)。
【実務ポイント】
AIには、危険を知らせるだけでなく重機を自動で止めるものもあります。それでも、法令で決まった立入禁止や誘導などの措置を整えるのは事業者の役目で、AIはそれを補う道具です。KY活動の進め方はKY活動とは、ヒヤリハットの記録の仕方はヒヤリハット事例、現場の見回りは安全パトロールとはで解説しています。
■ 検査・施工管理のAI活用事例
▶ AI配筋検査で立会い時間を約70%削減
結論として、鹿島建設は「移動式AI配筋検査システム」で、鉄筋籠1基あたりの発注者の立会検査時間を約300分から約100分に短縮しました(同社は約70%の削減としています。2026年9月11日発表)。2台のステレオカメラで撮った画像をAIで処理して鉄筋の本数・径・間隔などを計測するもので、実際の工事で鉄筋籠30基に適用しています。検査する人が鉄筋籠の上を歩く必要がなくなり、安全性も上がったとしています。
大林組も、AIで鉄筋の径・ピッチを計測して設計情報と照合するAI配筋自動検査システムを開発し、実証での正答率94.0%、延べ作業時間は同社が使っている専用検査システムと比べて約36%縮減と発表しています(2024年5月21日発表)。
▶ 建設機械の作業を自動で記録・分析
結論として、ドライブレコーダーの映像からバックホウの作業内容をAIが分類し、数値で記録する取組があります。鹿島建設とpluszeroは、掘削・積込など8区分に分類するAIモデルを実際の現場に導入しています(2026年1月20日発表)。
■ 書類・施工計画の生成AI活用
結論として、大成建設は生成AIで土木工事の全体施工計画書の下書きを約10分で作り、作業時間を従来比で約85%削減できるとしています(2025年11月28日発表)。AIの出力の信頼性が低い箇所を自動で特定し、その箇所を経験豊富な技術者が精査する仕組みです。
自社で生成AI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)を使う場合も、AIが作るのは下書き、確認して決めるのは人という分担にすると安全です。たとえば、次のような頼み方ができます。
- 「足場の組立て作業で、高さ5mの外部足場を組みます。作業前のKYで話し合う危険とその対策を、墜落・飛来落下・転倒の順に5つずつ挙げてください」
- 「次の安全朝礼の原稿を、2分で話せる長さに整えてください。数字や法令は書き換えないでください」
- 「このヒヤリハット報告(個人名・取引先名・現場名は消したもの)から、同じことを起こさないための対策を3つ提案してください」
AIが挙げた対策は、法令で決まった措置(たとえば高さ5m以上の足場の組立てでは作業主任者の選任や特別教育など)と照らして、必ず人が確認してください。
【注意】
生成AIは、もっともらしい誤り(存在しない条文や数字)を出すことがあります。法令や数値は必ずe-Gov法令検索や厚生労働省の資料で確かめてください。作業員の氏名や健康情報など個人情報は入力しないようにし、社内で使ってよいAIツールとルールを決めておきましょう。
■ AIを入れても変わらない法令上の義務
▶ 危険防止の措置義務
結論として、AIカメラやセンサーを入れても、事業者の危険防止の措置義務はなくなりません。労働安全衛生法 第20条は機械等による危険などの防止、第21条は掘削・荷役などの作業方法から生じる危険(第1項)や、墜落・土砂崩壊のおそれのある場所の危険(第2項)の防止を、事業者に義務づけています。2026年11月4日時点の条文で確認した限り、AIを導入したことで、これらの措置義務や安衛則 第158条の義務が免除される規定はありません。
▶ 重機の接触防止は「立入禁止」か「誘導者」
結論として、車両系建設機械を使う作業では、接触のおそれがある箇所への立入りを、見やすい箇所への表示などの方法で禁止するか、誘導者を配置して誘導させる必要があります(労働安全衛生規則 第158条第1項)。運転者は誘導者の誘導に従わなければなりません(同条第2項)。現行の条文では、立入りを禁止する対象は「作業従事者」です。重機近接検知のAIは、この立入禁止や誘導を補う道具として使い、AIだけに任せない運用にしてください。
▶ 特別教育はAIの有無にかかわらず必要
結論として、危険・有害な業務に就かせるときの特別教育は、AIの導入とは関係なく必要です(労働安全衛生法 第59条第3項)。たとえば機体重量3トン未満の車両系建設機械(整地・運搬・積込み用、掘削用、基礎工事用、解体用)の運転(道路上の走行を除く)は安衛則 第36条第9号、つり上げ荷重1トン未満のクレーン等の玉掛けは同条第19号の特別教育の対象です。建設現場で必要な教育は建設業で必要な特別教育一覧や特別教育・技能講習の一覧で確認できます。
AIを入れても、作業員の特別教育が足りているか不安なら、お電話でご相談ください。
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作業内容と人数をうかがい、必要な特別教育・安全衛生教育と受講の段取りをご案内します。
■ カメラ映像と個人情報の注意点
結論として、顔を識別するカメラを使う場合は、利用目的を特定して通知または公表し、撮影していることが本人に分かるようにする必要があります。個人情報保護法は、利用目的をできる限り特定すること(第17条)と、取得した個人情報の利用目的を本人に通知または公表すること(第21条)を義務づけています。個人情報保護委員会は、顔画像から顔特徴データを抜き出すことは個人情報の取扱いに当たり、利用目的をできる限り具体的に特定して通知または公表し、撮影されていることを容易に認識できるようにする措置を講じなければならないと整理しています(2023年3月「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」)。顔を識別しないカメラについても、映像の扱いのルールを決めておくと安心です。
現場の作業員を撮影するAIカメラを入れるときは、何のために撮るか(安全管理など)、どこに掲示して知らせるか、映像をだれが・いつまで保存するかを決めて、作業員に説明しておくとトラブルを防げます。カメラ画像の扱いの配慮事項は、経済産業省・総務省の「カメラ画像利活用ガイドブック ver3.0」(2022年3月)も参考になります。
■ 建設会社のAI導入の進め方
- 困りごとを1つ選ぶ:例)重機との接触ヒヤリが多い、書類づくりに時間がかかる
- 今の数字を測る:ヒヤリハットの件数、書類作成の時間など
- 小さく試す:1現場で、試用期間のあるサービスや生成AIの無料プランから
- ルールを決める:AIの出力をだれが確認するか、入力してはいけない情報、映像の保存期間
- 法令の措置と教育を確かめる:立入禁止・誘導・点検・特別教育など、AIとは別に必要なことをそろえる
- 効果を測って広げる:導入前の数字と比べ、効果があれば他の現場へ
■ よくある質問
▶ Q. 建設業ではAIを何に使っていますか?
結論として、安全管理(不安全行動の検知・危険予知)、検査(配筋の自動計測)、書類・施工計画の下書き、風の予測、建設機械の自動化に使われています。鹿島建設・大林組・大成建設・竹中工務店・長谷工などが公式に発表しています。
▶ Q. AIカメラを入れれば誘導者はいらなくなりますか?
結論として、いらなくなるとは言えません。車両系建設機械の接触防止は、立入禁止の措置か誘導者の配置が必要です(労働安全衛生規則 第158条)。AIの検知は、この措置を補うものとして使ってください。
▶ Q. 生成AIでKY活動や安全書類を作ってもいいですか?
結論として、下書きに使うのは有効ですが、内容を確かめて決めるのは人です。生成AIは存在しない条文や数字を出すことがあるため、法令や数値は一次資料で確認し、個人情報は入力しないでください。
▶ Q. AIを導入すれば特別教育は不要になりますか?
結論として、不要にはなりません。危険・有害な業務に就かせるときの特別教育は、AIの有無にかかわらず必要です(労働安全衛生法 第59条第3項)。
▶ Q. 国はAI活用をどう進めていますか?
結論として、国土交通省は2026年度を「i-Construction 2.0 躍動の年」として「AI活用」をキーワードに掲げ、2026年9月4日に「インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」を公表しました。AIを「現場で働く人の能力を拡張させ生産性向上を加速する基盤」と位置づけています。
■ まとめ
- 建設業のAIは、安全管理・検査・書類・気象予測・施工の自動化で実際の現場に入り始めている。
- 鹿島建設のAI配筋検査は発注者の立会検査時間を約300分→約100分(同社発表で約70%削減)、大成建設の生成AIは施工計画書の作業時間を約85%削減可能と発表。
- 国土交通省は2026年度のキーワードに「AI活用」を掲げ、取組方針でAIを「現場で働く人の能力を拡張させ生産性向上を加速する基盤」と位置づけている。
- AIを入れても、危険防止の措置(安衛法 第20条・第21条)、重機の接触防止(安衛則 第158条)、特別教育(安衛法 第59条第3項)は変わらない。
- カメラ映像を扱うときは、利用目的・掲示・保存のルールを決めて作業員に説明する。
■ 講習のご相談
産業技能センターでは、建設現場で必要な特別教育・安全衛生教育を行っています。多くの科目で1名様8,000円〜(税込・教材費・修了証発行費込み)です。技能講習修了者の安全衛生教育や管理者・主任者の能力向上教育などは、オンライン講習(Google Meet)で1名様から受講でき、出張講習は関東1都6県で5名様からです。受講方法はオンライン講習のご案内をご覧ください。
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■ 参考(一次情報・2026年11月4日確認)
- セーフィー|不安全行動検知AI「Ailytics(SF)」の本格提供を開始(2026年7月24日)
- 長谷工コーポレーション|生成AIで施工管理者の危険予測を支援(2025年9月9日)
- NEC・住友重機械工業|油圧ショベルの映像・センサデータを活用したヒヤリハット抽出・レポート化システム(2026年3月25日)
- 竹中工務店|建設現場上空の風速・風向予測WEBアプリ「ソラビュー」(2025年10月14日)
- 大林組|クアトロアイズ(技術紹介)
- 鹿島建設|移動式AI配筋検査システムを開発(2026年9月11日)
- 大林組|AI配筋自動検査システムを開発(2024年5月21日)
- 鹿島建設・pluszero|バックホウの作業内容を自動で分類するAIモデル(2026年1月20日)
- 大成建設|生成AIを活用した全体施工計画書作成支援システム(2025年11月28日)
- 大成建設|機械学習AIによるシールドマシン自動運転技術(2026年7月8日)
- 国土交通省|インフラ分野のAI実装に向けた取組方針(2026年9月4日)
- 国土交通省|i-Construction 2.0の2年目(2025年度)の取組成果(2026年4月28日)
- 国土交通省|i-Construction 2.0(本文PDF)
- 個人情報保護委員会|犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について(2023年3月)
- 総務省・経済産業省|カメラ画像利活用ガイドブック ver3.0(2022年3月)
- e-Gov法令検索|労働安全衛生法(第20条・第21条・第59条)
- e-Gov法令検索|労働安全衛生規則(第36条・第158条)
- e-Gov法令検索|個人情報の保護に関する法律(第17条・第21条)
