溶接資格の種類一覧|取得方法・難易度・活かせる職種を徹底解説!

日本国内で取得できる溶接に関する資格は多岐にわたります。大きく分けると、作業に必須の国家資格(労働安全衛生法に基づく資格)と、技能レベルを証明する民間資格(業界団体が認定する資格)があります。以下に主な資格を種類別に一覧します。
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必須資格と技能証明の資格一覧
- アーク溶接作業者(特別教育修了証)
手溶接(被覆アーク溶接)を行うための入門資格です。労働安全衛生法により、アーク溶接業務に就く者は「アーク溶接等の業務に係る特別教育」を受ける義務があります。講習(学科・実技)を修了することで取得でき、比較的容易に取得可能です。満18歳以上が対象。 - ガス溶接技能者(技能講習修了証)
酸素と可燃性ガスを用いたガス溶接・溶断作業を行うための資格です。こちらも労安法に基づき「ガス溶接技能講習」の修了が必要で、講習を受け試験に合格すると修了証が交付されます。対象は満18歳以上。 - ガス溶接作業主任者(国家資格)
多数の作業者がガス溶接を行う現場で選任が義務付けられる資格です。ガス溶接作業全体の安全管理を担います。受験に資格制限はなく誰でも筆記試験を受けられますが、合格後に免許申請する際には実務経験の証明(通常2~3年程度)が必要です。試験は筆記20問で行われます。 - ボイラー溶接士(国家資格)
高温高圧のボイラーや第一種圧力容器の溶接を行うための国家資格です。普通ボイラー溶接士と特別ボイラー溶接士の2区分があります。普通ボイラーは板厚9mm程度までの溶接、特別ボイラーはそれ以上の厚板溶接が対象です。普通ボイラー溶接士は受験に1年以上の溶接実務経験(ガス・自動溶接を除く)が必要。特別ボイラー溶接士は普通ボイラー取得後に1年以上のボイラー溶接実務が必要です。学科・実技試験に合格すると免許が交付されます。半自動溶接(炭素鋼のMAG/CO2溶接)、ステンレス鋼溶接(ステンレス材をTIG/被覆アーク/半自動で溶接)、チタン溶接、プラスチック溶接、銀ろう付などがあります。試験はJIS規格に準拠した実技試験と学科試験で構成され、合格者には「適格性証明書」が交付されます。試験等級はまず基本級(下向き溶接:F姿勢)に合格し、その後専門級(立向き・横向き・上向きなど:V/H/O姿勢)を取得する流れになります。基本級に合格しないと専門級も不合格となる仕組みです。受験資格は基本級が満15歳以上かつ1ヶ月以上の実技経験、専門級は15歳以上・3ヶ月以上の経験+該当基本級の取得が条件です。 - 溶接管理技術者(WES8103 ほか)
溶接施工や品質管理の知識・能力を認証する資格で、日本溶接協会が認定しています。国際溶接技術者(IWE/IWT/IWS)に対応した資格で、特別級(IWE相当)・1級(IWT相当)・2級(IWS相当)に区分されます。受験には理工系大学卒相当の学歴と実務経験が求められ(級により異なる)、筆記試験(Ⅰ・Ⅱ)および口述試験に合格する必要があります。取得後は溶接部門の技術管理者として活躍でき、官公庁工事や認定工場では有資格者の配置が求められます。溶接作業指導者:熟練技能者向けの資格で、現場における溶接技能の指導や新人教育を担う人材を認定するものです。日本溶接協会が講習と試験を実施しています。満25歳以上で溶接技能者資格を保有し一定の実務経験を積んだ人が対象で、3日間の講習受講後に筆記試験に合格すると認証されます。 - WES関連のその他資格
日本溶接協会(JWES)では上記以外にも業界ニーズに応じた資格認証を行っています。例えば溶接ロボット運転特別級・1級(鉄骨建築物のマルチロボット溶接オペレータ資格)、マイクロソルダリング技術者(微細はんだ付け技術の資格)などがあります。また、特定分野向けとして石油工業溶接士(石油学会認定の溶接資格)やPC工法溶接技能者(プレストレストコンクリート建築用、※平成29年以降新規認定停止)などの資格も存在します。これらはそれぞれの業界団体が認定する民間資格ですが、国内で広く認知された主要資格と言えます。
以上のように、溶接に関する資格には法律で必須となる資格(アーク・ガス溶接の講習修了、作業主任者、ボイラー溶接士など)と、技能習熟や管理能力を示す資格(JIS溶接技能者、溶接管理技術者など)があり、それぞれ目的や対象者が異なります。
資格の取得方法
各資格ごとに、受験(受講)のための条件や試験内容が定められています。必要な実務経験や学歴、試験科目・合格基準、費用や日程について代表的なものを解説します。
アーク溶接作業者(特別教育)は講習会に参加して取得。受講資格は満18歳以上で、学科11時間・実技10時間の講習(通常3日間)を修了すれば修了証が交付されます。試験というよりは講習最終日に簡単な確認テストがある程度で、ほぼ全員が修了できます。受講費用はおよそ1~2万円程度(実施機関により異なる)。講習は各地の教習機関や職業訓練校で随時開催されており、申し込みから取得まで数週間~1ヶ月程度です。
ガス溶接技能者(技能講習)も同様に満18歳以上が対象で、学科・実技あわせて2日間(計14時間)の講習を受けます。講習修了時に筆記試験が課されますが難易度は易しく、修了試験の合格率はほぼ100%です。費用は1.4~2万円程度(地域や機関による)です。講習日程は各地の安全衛生技術センターなどで定期的に実施されます。
ガス溶接作業主任者は各都道府県で年数回実施される国家試験に合格する必要があります。受験資格に制限はなく誰でも受験できますが、合格後に都道府県労働局へ免許申請する際には溶接または溶断業務の実務経験(おおむね2~3年以上)が求められます。試験はマークシート方式の筆記試験のみで、出題数20問・試験時間3時間です。出題範囲はガス溶接の安全管理、関係法令、機材の取扱いなどで、過去問演習が有効です。合格基準はおおむね6割前後の正答です。受験料は約6,800円です。合格率は後述するように8~9割と比較的高めですが、実務経験が無い場合は免許交付まで合格証を保管しておく形になります。
普通ボイラー溶接士は国家試験(学科+実技)に合格して都道府県に免許申請します。受験には1年以上の手溶接実務経験が必要で(ガス溶接・自動溶接による経験は除く)、証明書類の提出が求められます。試験は学科40問(2時間30分)と実技試験(溶接作業1時間)です。実技は下向きおよび立向き姿勢の突合せ溶接が課題となります。合格基準は学科・実技ともに60点程度ですが、実技は試験片の外観検査と曲げ試験で判定されるため、確実な溶接技能が必要です。受験費用は学科6,800円、実技18,900円で、合格までに練習用材料費等もかかります。試験は年2回程度行われ、申込から取得までは数ヶ月~半年程度です。なお免許取得後も2年ごとに免許の書換え(更新講習等)は必要になります。
特別ボイラー溶接士は普通ボイラー溶接士免許取得後、さらに1年以上ボイラーまたは第一種圧力容器の溶接経験を積むことで受験資格が得られます。試験内容は普通ボイラーより難度が上がり、学科40問(2時間30分)と実技(厚板の横向き突合せ溶接課題・1時間)で構成されます。受験費用は学科6,800円、実技21,800円です。試験実施は普通ボイラーと同じく年2回程度で、取得までに要する期間は普通ボイラー取得から少なくとも1年以上+試験合格までの期間となります。
JIS溶接技能者評価試験は日本溶接協会および各地の溶接協会が随時実施しています。まず受験者は自分が受けたい種目(材料と溶接法の組み合わせ)と姿勢等級(基本級Fまたは専門級V/H/O/P)を選びます。受験資格は基本級が満15歳以上かつ1ヶ月以上のその溶接法の経験、専門級が15歳以上・3ヶ月以上の経験かつ対応する基本級合格者と規定されています。試験は学科試験(四肢択一20問、60%以上正解で合格)と実技試験(規格に沿った試験材を溶接し、その溶接継手の外観と曲げ試験結果で評価)から成ります。学科試験は溶接一般、安全、材料、施工法、検査など基礎知識が問われ、過去に同種目の資格を取得していれば免除されます。実技は試験会場にて指定の試験片(板材または管材)を制限時間内に溶接し、その試験片を後日検査します。合格基準はJISまたはWES規格に定められた欠陥許容範囲内に収まることです。受験費用は種目により異なりますが、学科1,100~1,210円、実技は1万円台~数万円程度(試験材や姿勢数による)となっています。合格すると資格証(適格性証明書)が交付され、資格は基本的に終身有効ですが、産業界の要請により一定期間ごとの更新制へ移行する動きもあります(ISO9606準拠の再認証制度など)。
溶接管理技術者資格の取得方法は、まず日本溶接協会に受験申請を行い、指定された筆記試験(Ⅰ・Ⅱ)を受験します。受験には級ごとに定められた学歴・実務年数を満たす必要があります。例えば2級は高校卒でも一定の実務経験があれば受験可能ですが、1級・特別級は大学(高専)卒程度の学歴とさらに長い実務経験が求められま。筆記試験Ⅰでは材料・溶接法・施工・管理など広範な知識が記述式で問われ、試験Ⅱでは専門的な計算問題や事例問題が課されます。筆記試験合格者には口述試験(面接形式で実務に即した質疑応答)が行われます。最終的にすべて合格すると資格認証となり登録料を納付して資格者証が交付されます。費用は受験料が筆記二科目で26,400円、口述試験で2万2千~2万7千円程度、合格後の登録料が約2万円です。試験実施は年1回で、出願から合格発表・認証まで半年以上かかります。資格の有効期間は5年間で、更新には講習受講等の要件があります。
溶接作業指導者資格は、日本溶接協会主催の講習会に申し込み受講するところから始まります。申込条件は満25歳以上であり、かつ何らかの溶接技能者資格(JIS技能者の専門級など)を有することが望まれます。講習は3日間連続で行われ、溶接教育法や指導理論、安全管理などについて学びます。講習最終日に筆記試験があり、理解度を確認します。講習・試験とも難易度はそれほど高くなく、ほぼ全員が合格できるレベルです。費用はテキスト代・試験料・登録料込みで3~5万円程度となっています。講習は年1~2回程度開催され、申込みから資格取得まで数ヶ月です。資格取得後は協会から認定証が発行され、5年ごとに更新講習があります。
その他の資格(石油業界溶接士、ロボット溶接オペレータなど)もそれぞれ所管団体への申請・講習・試験によって取得します。例えば石油学会の溶接士試験(JPI溶接士)は年1回程度実施され、学科・実技試験に合格すると認定証が交付されます。PC工法溶接技能者資格は日本プレハブ建築協会がかつて講習+試験で認定していましたが、平成29年度以降は新規の認定を取り止めています。溶接ロボット運転資格は講習と実技試験で取得可能で、鉄骨溶接用ロボットの操作技能を認定するものです。このように資格ごとに取得プロセスは異なりますが、いずれも所定の講習受講や試験合格が必要であり、取得まで数か月~1年程度の準備期間を見ておくと良いでしょう。
3. 難易度の分析
それぞれの資格について、合格率や要求される経験年数などから難易度を比較してみます。
まず初歩的な資格であるアーク溶接作業者・ガス溶接技能者は、いずれも講習を受ければほぼ確実に取得できます。合格率(修了率)はほぼ100%で、試験というより講習の出席確認程度の難易度です。したがって難易度は非常に低い(★)といえます。
ガス溶接作業主任者は筆記試験のみですが、過去の合格率は80~90%程度と高く、多くの受験者が一度で合格しています。出題数も少なくテキストをしっかり押さえれば難しくありません。実務経験のない人でも受験可能とはいえ、合格後に免許申請するには経験が必要になるため、実務を積んでから挑戦する方が望ましいでしょう。難易度の目安は中級(★★★)程度ですが、試験自体は基礎知識中心で合格しやすい部類です。
普通ボイラー溶接士は学科・実技とも一定の専門知識と技能が要求されます。近年の合格率を見ると、学科試験が約50~65%、実技試験が約60%前後となっており、決して容易ではありません。実技で不合格となるケースも多く、十分な練習が必要です。特に経験1年程度では立向き溶接に苦戦する例もあります。特別ボイラー溶接士になると難易度はさらに上がり、学科合格率70%前後、実技合格率90%前後といわれます。実技試験では厚板の横向き溶接を行うため高度な技能が求められます。ただし特別の実技は実務で十分経験を積んだ人が受験するため合格率自体は高めです。総合すると、ボイラー溶接士試験は中級以上(★★★)の難易度で、しっかりとした準備が合格の鍵です。
JIS溶接技能者資格試験の難易度は、選択する種目と等級によって異なります。基本級(F)は技能者なら比較的取りやすく、合格率はおおむね80%程度とされています。試験片の板厚が薄く姿勢も下向きのため、大きな欠陥なく溶接できれば合格できます。一方、専門級(V/H/O)は難易度が上がり、不合格となる人も出てきます。特に上向き溶接(O)や全姿勢パイプ溶接(P)は難関で、十分な練習と過去の不合格事例の研究が必要です。不合格の主な原因は溶け落ちや裏波不良、余盛過多などの欠陥なので、事前講習会などで試験官の指導を受けると良いでしょう。学科試験は過去問を復習しておけば合格率90%以上と難しくありません。総じてJIS技能者資格は**基本級=易しい(★★)、専門級=やや難しい(★★★)程度といえます。
アルミニウム溶接技能者やステンレス鋼溶接技能者といった素材別の資格試験も、基本級であれば合格率80%前後で推移しています。受験者の多くが実務者であるため合格率は高めですが、専門級になると実技の難度が上がります。特にアルミ溶接は溶融池の観察が難しく、肉盛り不足などで落とされることがあります。ただしこちらも試験前に講習会で適切な溶接条件やコツを学べば十分合格を狙えます。
溶接管理技術者資格は学科試験の範囲が広く、難関資格として知られます。最新の統計(2023年)では、2級の合格率がおよそ65.2%と半数以上が合格するのに対し、1級は24.2%と4人に1人程度しか合格しません。最上位の特別級も28.6%と難しく、特に1級以上は高度な知識と応用力が要求されます。1級試験は問題自体も難解で、毎年合格率20~30%前後に留まっています。2級は出題レベルがやや易しく、合格率50~60%程度で推移しており、基礎を押さえれば十分合格可能です。難易度の高さゆえに計画的な勉強(少なくとも数ヶ月の学習期間)と、過去問分析・専門書での知識習得が不可欠です。合格者からは「学科はとにかく範囲が広いので試験委員が出しそうなポイントに絞って対策した」「仕事と両立して勉強時間の確保が一番大変だった」といった声も聞かれます。難易度ランクでは1級・特別級=最難関(★★★★★)、2級=難関(★★★★)と位置付けられます。
溶接作業指導者は講習中心ということもあり合格率ほぼ100%で、必要な知識も現場経験があれば難しくありません。試験も講習内容の確認程度なので、難易度は低い(★★)でしょう。ただし受講資格として求められる実務経験(目安3年以上)や事前に技能者資格を持っていることなどハードルがあります。その条件を満たすまでの道のりが実質的な難易度といえます。
その他、石油工業溶接士やロボット溶接オペレータなど特殊分野の資格は、受験者数が限られるため合格率データは非公表の場合もあります。一般的には実務経験者が受けることが多く合格率は高めとされていますが、資格取得後の活躍フィールドが専門的である分、資格自体の希少性が高い傾向にあります。
以下に主な資格の難易度(合格率や必要経験年数)の目安をまとめます。
資格名称 | 必要実務経験 | 最新の合格率・修了率(目安) | 難易度感 |
---|---|---|---|
アーク溶接作業者 | なし(18歳以上) | ≈100% | ★(極めて易) |
ガス溶接技能者 | なし(18歳以上) | ≈100% | ★(極めて易) |
ガス溶接作業主任者 | (実務2~3年で免許) | 80~90%程度 | ★★☆(やや易) |
普通ボイラー溶接士 | 1年以上 | 学科50~65%、実技60%前後 | ★★★(中) |
特別ボイラー溶接士 | 普通取得+1年以上 | 学科70%、実技90%前後 | ★★★☆(中上) |
JIS溶接技能者(基本級) | 1ヶ月以上 | ≈80% | ★★(易) |
JIS溶接技能者(専門級) | 基本級取得+3ヶ月以上 | ※種目により異なる(50%前後~) | ★★★(中~中上) |
アルミ溶接技能者(基本級) | 1ヶ月以上 | ≈80% | ★★(易) |
アルミ溶接技能者(専門級) | 基本級取得+3ヶ月以上 | 70%前後(推定) | ★★★(中) |
溶接管理技術者2級 | (高卒可・実務数年) | 50~65%程度 | ★★★★(難) |
溶接管理技術者1級 | (大卒+実務3年~) | 20~30%程度 | ★★★★★(最難) |
溶接管理技術者特別級 | (大卒+実務5年~) | 25~30%程度 | ★★★★★(最難) |
溶接作業指導者 | (25歳・実務3年~) | ≈100% | ★★(易) |
※星の数は難易度のイメージ(★5が最難関)。合格率は年度によって変動します。またJIS技能者専門級の合格率は種目・姿勢により大きく異なります。
4. 資格を活かせる職種
取得した溶接関連資格は、現場の作業職から管理職まで幅広い職種で活かすことができます。それぞれの資格が活かせる主な職種・業界を紹介します。
- 溶接工(製造業・建設業):溶接の技能資格は現場の溶接工として直接役立ちます。例えば鉄骨建築物の建方や橋梁の現場では、JIS溶接技能者資格(炭素鋼・半自動など)を持つ溶接工が求められます。建築鉄骨の高力ボルト接合や溶接継手には有資格者の施工が推奨・義務付けられる場合があり、資格保有者は現場で重宝されます。また造船業では船体ブロックの溶接に高度な技術が必要なため、JIS溶接技能者の上級資格や、船級協会が認定する溶接資格を持つ溶接工が活躍します。実際、自動車工場や修理工場、鉄工所、造船所、建設業など幅広い業種でアーク溶接作業者資格などを持つ人材の活躍の場があります。プラント配管の現場でも、配管溶接のためにJIS技能者資格(管材溶接の専門級)を取得していると有利です。
- 設備メンテナンス・保守:工場設備やインフラ設備の保全業務では、配管の肉盛り補修や機械部品の肉割れ修理など溶接の出番が多々あります。このため、プラントエンジニアや設備保全技術者がアーク溶接作業者やガス溶接技能者の資格を持っているケースも一般的です。例えばボイラーやタンクの補修にはボイラー溶接士の資格が必要ですし、高圧配管の補修には熟練溶接工の腕が求められます。インフラでは上下水道管や鉄道の架線、建機の補修などにも溶接技能が必要で、資格を持っていると作業範囲が広がります。設備管理職がガス溶接作業主任者の資格を持っていれば、現場での火気作業の安全監督も兼任でき重宝されるでしょう。
- 溶接の技術指導者・検査員:溶接作業指導者の資格を持つと、企業内で新人や若手への技術指導を任されたり、社内講師として研修を担当したりできます。また溶接技能競技大会のトレーナー役や、職業訓練校の溶接科講師といった道も開けます。溶接検査や品質管理の分野でも、溶接技能や工程を熟知した人材が必要です。外観検査や非破壊検査の資格と合わせて、溶接作業指導者やJIS技能者資格を持っていると溶接検査技術者としての信頼性が高まります。建設現場では、鉄骨溶接部分の超音波検査などを行う検査員に溶接の知識が要求されます。
- 溶接管理・施工管理(管理職):溶接管理技術者資格(WES)は管理職や技術リーダーとしてのキャリアに直結します。官公庁発注のインフラ工事や、大型プラント建設では、有資格の溶接管理技術者を現場に配置することが求められるケースがありますhibiyato.co.jp。そのため、この資格を持っているとそうしたプロジェクトを請け負う企業への転職や昇進で有利になります。具体的な職種としては、溶接施工管理技士・品質管理責任者・製造部門の課長職などが挙げられます。製缶や鉄骨製作の認定工場では、溶接管理技術者資格者を「技術顧問」「溶接部門長」として迎える動きもあります。溶接管理技術者は国際資格(IWEなど)に通じるため、海外プロジェクトで国際溶接技術者として活躍する道も開けます。
- その他特殊分野の職種:石油精製や化学プラントなどの高圧配管溶接工は、石油工業溶接士やASME溶接資格など専門資格が要求され、高度な技能者として高収入が期待できます。自動車や航空機の製造ラインではロボット溶接オペレーターが活躍しており、ロボット溶接の資格やプログラミング知識を持つと生産技術職として重宝されます。また電子機器産業ではマイクロソルダリング技術者の資格を持って精密はんだ付け工程のリーダーとなるケースもあります。溶接と一口に言っても、その活用範囲は大小さまざまな産業に及んでおり、資格によって活躍できるフィールドも異なります。
以上のように、溶接資格は現場作業から管理・教育職まで幅広く活かせます。自らのキャリアプランに合わせて適切な資格を取得することで、携われる業務の幅が広がり、収入アップやキャリアアップにもつながります。例えば現場志向の方はまず技能系資格を極め、ゆくゆくは管理技術者資格に挑戦する、といったステップアップも可能です。
以下に職種と求められる主な資格のマッチングを表にまとめます。
職種・業界 | 求められる資格・スキル例 |
---|---|
建築鉄骨・橋梁の溶接工 | アーク溶接作業者、JIS溶接技能者(炭素鋼・全姿勢) |
造船・鉄工所の溶接工 | アーク溶接作業者、半自動溶接技能者(炭素鋼・厚板) |
プラント配管・ボイラー溶接工 | ボイラー溶接士(普通・特別)、JIS溶接技能者(管材溶接) |
工場設備メンテナンス技術者 | アーク溶接・ガス溶接(特別教育修了)、普通ボイラー溶接士 |
建設現場の溶接施工管理者 | ガス溶接作業主任者、JIS溶接技能者(建築H級相当) |
溶接品質管理・検査員 | 溶接管理技術者(1級・2級)、溶接作業指導者、非破壊検査資格 PT/UT 等 |
製造部門の溶接工程リーダー | 溶接管理技術者(2級以上)、JIS溶接技能者(複数資格保有) |
溶接技術インストラクター・講師 | 溶接作業指導者、JIS溶接技能者(上級)、職業訓練指導員免許(溶接科) |
自動車・機械のロボット溶接オペレータ | ロボット教示等特別教育、ロボット溶接オペレータ資格(JWES) |
電子・精密機器の実装・はんだ付け | マイクロソルダリング技術者、はんだ付け作業士認定 |
(※職種によっては複数の資格や関連する技能講習の修了が必要になる場合があります)
5. 資格取得の流れと比較まとめ
最後に、各資格について取得までの一般的なフローと主要項目の比較を図表で示します。ご自身の目指す資格の全体像を把握する参考にしてください。
5.1 各資格の比較一覧表
主要な溶接資格の受験資格や試験内容、費用などを比較表にまとめます。
資格名称 | 区分(法定/民間) | 受験資格・要件【出典】 | 試験・講習内容【出典】 | 受験費用【出典】 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
アーク溶接作業者 | 労安法に基づく特別教育 | 満18歳以上 | 学科11h+実技10h講習(3日間) | 1~2万円程度 | 講習修了で取得(試験ほぼ無し) |
ガス溶接技能者 | 労安法に基づく技能講習 | 満18歳以上 | 学科・実技計14h講習+修了試験 | 1.5~2万円程度 | 講習修了で取得(修了試験あり) |
ガス溶接作業主任者 | 国家資格(労働安全衛生法) | 受験資格なし(合格後要実務経験証明) | 筆記試験20問(3時間) | 6,800円 | 合格後に免許申請 |
普通ボイラー溶接士 | 国家資格(労基法) | 溶接実務1年以上(ガス/自動溶接除く) | 学科40問(2.5h)+実技1h | 学科6,800円+実技18,900円 | 免許交付、2年毎書換え |
特別ボイラー溶接士 | 国家資格(労基法) | 普通免許取得+溶接実務1年以上 | 学科40問(2.5h)+実技1h | 学科6,800円+実技21,800円 | 免許交付、2年毎書換え |
JIS溶接技能者(基本級) | 民間資格(JWES認証) | 満15歳以上+1ヶ月以上練習 | 学科20問(60%以上合格)+実技(試験片溶接) | 学科1,100円+実技1万~数万円 | 適格性証明書交付(終身有効) |
JIS溶接技能者(専門級) | 民間資格(JWES認証) | 満15歳以上+3ヶ月以上+基本級保有 | 学科(基本級取得者は免除)+実技(上位姿勢) | 実技科目数に応じ増加 | 基本級不合格だと専門級も不合格 |
アルミニウム溶接技能者 | 民間資格(軽金属溶接協会) | 基本級:15歳以上+1ヶ月以上 専門級:基本級+3ヶ月 | 学科試験+実技試験 | 学科1,210円+実技6,490円~ | 合格後認定料要。更新制度あり |
ステンレス鋼溶接技能者 | 民間資格(JWES認証) | 基本級:15歳以上+1ヶ月以上 専門級:基本級+3ヶ月 | 学科試験+実技試験(被覆・TIG・MAG組合せ) | 学科1,100円+実技別途 | 種類(溶接法)ごとに資格区分 |
溶接管理技術者(特別級) | 民間資格(JWES認証) | 理工系大卒+実務5年以上 等級別 | 筆記試験Ⅰ・Ⅱ(記述式)+口述試験 | 筆記26,400円+口述22,000円~ | 合格後登録料19,800円、有効5年更新 |
溶接管理技術者(1級) | 民間資格(JWES認証) | 理工系大卒+実務3年以上 等 | 筆記試験Ⅰ・Ⅱ+口述試験 | 同左(特別級に同じ) | 合格後登録料19,800円、有効5年更新 |
溶接管理技術者(2級) | 民間資格(JWES認証) | 高専・高卒+実務年数 等 | 筆記試験Ⅰ・Ⅱ(1級より易)+口述試験 | 同左 | 合格後登録料19,800円、有効5年更新 |
溶接作業指導者 | 民間資格(JWES認証) | 満25歳以上+技能者資格保有 推奨 | 講習3日間+筆記試験 | 約5万円(講習・試験・登録) | 合格後認定、有効期間5年ごと講習 |
ガス溶接ロボット特別級 | 民間資格(JWES認証) | 鉄骨溶接ロボ操作経験(推奨) | 筆記試験+実技試験 | - | 鉄骨分野のロボット溶接オペレータ |
石油工業溶接士 | 民間資格(石油学会) | 実務経験(推奨) | 学科試験+実技試験 | - | 石油配管・タンク分野の認定資格 |
※上記は主な資格の一例です。費用は目安で変更の可能性があります。
5.2 資格取得フローの図解
資格取得までの一般的な流れを、JIS溶接技能者資格(手溶接・基本級)を例に図解します。
- 受験準備:実務や訓練校で対象溶接法の技能を少なくとも1ヶ月以上習得する(練習・講習参加)。
- 受験申し込み:地域の溶接協会に試験申請(希望する資格区分と試験姿勢を選択)。試験日程の予約。
- 試験対策:公式テキストや過去問題集で学科試験の勉強。実技試験に向け試験材(板厚や開先形状)で溶接練習を行う。必要に応じて事前講習会に参加。
- 試験当日:午前中に学科試験(20問、制限時間30~60分程度)を実施。合格基準は6割以上正答。午後に実技試験として試験材の溶接を行う。指定の姿勢・板厚で制限時間内に溶接完了する。
- 試験片検査:受験者本人は結果を持ち帰れない。提出された試験片は後日、協会で外観検査と曲げ試験による評価が行われる。
- 結果発表:数週間~1ヶ月後に合否通知。学科・実技とも合格基準を満たした場合「適格性証明書」交付手続きへ進む。片方不合格の場合は不合格。
- 資格証交付:合格者に対し資格証明書が発行される(写真付きカードまたは紙証)。資格登録料の支払いが必要な場合もある。
このように、申込→学習→試験→結果通知→資格交付というプロセスになります。他の資格でも基本的な流れは似ています。講習修了型の資格(例:アーク溶接作業者)では、「講習受講→修了試験(確認テスト)→修了証交付」というフローになります。実技を含む資格では事前の練習期間を十分に確保し、試験要項に沿った練習を積むことが重要です。
5.3 職種と必要資格のマッチング図
前述のように、溶接資格はそれぞれ活用できる職種が異なります。以下の図は、代表的な職種ごとに必要とされる資格をマッチングしたものです(★印は特に重要な資格)。
コピーする編集する現場系溶接工:
├── 建築鉄骨・橋梁溶接工 … ★JIS溶接技能者(炭素鋼・全姿勢)、アーク溶接作業者
├── 造船・プラント溶接工 … ★JIS溶接技能者(厚板・管)、ボイラー溶接士、半自動溶接
└── 製造板金・アルミ溶接工 … アルミ溶接技能者、ステンレス溶接技能者、ガス溶接技能者
設備保全・メンテ:
└── 工場設備・インフラ保守 … ★アーク溶接作業者、ガス溶接技能者、(必要に応じボイラー溶接士)
管理・監督系:
├── 溶接施工管理(現場監督) … ★ガス溶接作業主任者、JIS溶接技能者(建築H級)
├── 品質管理・検査(検査員) … ★溶接管理技術者、溶接作業指導者、非破壊検査資格
└── 溶接技術管理(工場長) … ★溶接管理技術者(特別級・1級)、JIS技能者複数種取得者
教育・専門職:
├── 溶接技能インストラクター … ★溶接作業指導者、JIS溶接技能者(上級)
└── 特殊分野スペシャリスト … ロボット溶接オペレーター、石油工業溶接士、マイクロソルダリング技術者
(※★はその職種で特に有用な資格の例)
上記のように、自身の就きたい職種から逆算して必要な資格を取得していくことで、キャリア形成がしやすくなります。「現場で経験を積みつつ資格をステップアップする」「資格を取得してから専門分野に飛び込む」などアプローチは様々ですが、溶接の世界では資格=スキルの証明として評価される場面が多いです。ぜひ本記事の情報や図表を参考に、将来設計に合った資格取得にチャレンジしてみてください。