高圧・特高電気取扱者特別教育とは?|講習内容・費用・低圧との違いを徹底解説!

キュービクルの点検などで必須となる高圧・特高電気取扱者特別教育。その講習内容や費用、低圧との違いが分からず、お困りではありませんか。本記事では、法律で定められた受講義務から具体的なカリキュラム、料金相場まで、資格取得に必要な情報を網羅的に解説し、あなたの疑問を解消します。

目次

そもそも「高圧・特高電気取扱者特別教育」って何?

工場やビル、商業施設などで見かける金属製の箱「キュービクル」。こうした受変電設備の点検や操作には、極めて高い電圧が関わるため、専門的な知識がなければ命に関わる重大な感電事故につながりかねません。

「高圧・特高電気取扱者特別教育」とは、そのような危険な作業から作業者の安全を確保するために、法律で定められた非常に重要な安全教育のことです。ここでは、その基本から分かりやすく解説していきます。

まずは基本から!法律で定められた重要な安全教育です

この特別教育は、労働安全衛生法に基づき、事業者が対象となる従業員に対して実施することが厳格に義務付けられています。

なぜなら、高圧や特別高圧の電気は、低圧の電気とは比較にならないほど危険性が高く、充電部分に触れずとも、近づくだけで感電する「アーク放電」という現象を引き起こす可能性があるからです。

このような特有の危険から作業者を守るため、法律では高圧・特別高圧の充電電路や、それに接続された設備の点検・操作などを行う作業者を対象に、専門的な知識と技術を学ぶための特別な教育を必須としているのです。

一番気になる!「低圧電気取扱特別教育」との違い

電気を扱う安全教育と聞くと、「低圧電気取扱業務特別教育」を思い浮かべる方も多いでしょう。この二つは名前が似ていますが、その危険性のレベルと対象業務は全く異なります。

一番の大きな違いは、その名の通り「扱う電圧の大きさ」です。低圧電気取扱特別教育を修了していても、高圧・特別高圧の業務に就くことは法律で固く禁じられています。

両者の違い

比較項目高圧・特高電気取扱者特別教育低圧電気取扱業務特別教育
対象電圧交流600V、直流750Vを超える電気交流600V、直流750V以下の電気
危険性の特徴近づくだけで感電するリスクがある主に直接触れることによる感電リスク
主な対象業務キュービクル等の受変電設備の操作・点検分電盤の操作、電動機械の配線、電気自動車の整備など
カリキュラム高圧特有の危険性、保護具、救急措置など電気の基礎、安全な作業方法など

このように、高圧・特高の作業には、より高度で専門的な安全知識が求められます。一般的な電気作業の基礎となる低圧電気取扱業務特別教育については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ご自身の業務範囲と照らし合わせてご確認ください。

「高圧」と「特別高圧(特高)」の電圧区分をサクッと整理

では、法律上、「低圧」「高圧」「特別高圧(特高)」は、具体的にどのように区分されているのでしょうか。この区分を理解しておくことは、自分の業務がどの教育の対象になるかを判断する上で非常に重要です。

電圧の区分(労働安全衛生規則 第36条より)

区分直流(DC)交流(AC)
低圧750V 以下600V 以下
高圧750V を超え 7,000V 以下600V を超え 7,000V 以下
特別高圧7,000V を超えるもの7,000V を超えるもの

一般的に、ビルや工場に設置されているキュービクルで受電する電圧は「高圧」に分類されます。そして、発電所から送られてくる送電線の電圧などが「特別高圧」にあたります。ご自身の作業環境がどの電圧に該当するのか、しっかりと確認しておきましょう。

受講は義務?あなたの業務が対象かチェックしよう

「この教育が重要なのは分かったけれど、うちの会社の業務は本当に受講が義務付けられているのだろうか?」

多くの企業の安全管理者様や、現場の責任者様が抱く、最も重要な疑問だと思います。結論から申し上げると、扱う電圧が「高圧」または「特別高圧」に該当し、感電の危険がある作業に従事させる場合、この特別教育の受講は法律によって厳格に義務付けられています。

このセクションでは、どのような法律に基づいて義務が発生するのか、そして具体的にどのような作業が対象となるのかを、一つひとつ明確にしていきます。

なぜこの教育が必要?法律上の根拠を解説

この受講義務の明確な根拠となっているのが、「労働安全衛生法」と、その詳細を定めた「労働安全衛生規則」です。

法律の条文を少し見てみましょう。

  • 労働安全衛生法 第59条第3項 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、…当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。
  • 労働安全衛生規則 第36条第4号 法第59条第3項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、…高圧若しくは特別高圧の充電電路若しくは当該充電電路の支持物の敷設、点検、修理若しくは操作の業務…

少し硬い表現ですが、要点は「高圧や特別高圧の電気を扱う業務は、法律で指定されるほど危険性が高いので、事業者は作業者に必ず専門の安全教育(特別教育)を受けさせなさい」ということです。

つまり、特別教育の実施は、努力目標や推奨事項ではなく、事業者に課せられた明確な法的義務なのです。

キュービクルの点検は?具体的な対象業務一覧

では、具体的にどのような作業が特別教育の対象となるのでしょうか。基本的には、高圧または特別高圧の電気が流れている状態(活線状態)の電路や設備に、作業者が近づいて行う作業全般が該当します。

以下に、対象となる業務の代表例を挙げます。

対象業務の例

  • キュービクル式高圧受電設備の操作・点検業務(断路器や開閉器の操作など)
  • 高圧・特別高圧ケーブルの配線、接続、修理作業
  • 高圧・特別高圧の充電部分が露出している場所での、清掃や塗装などの作業
  • 活線作業(電気が流れている状態で直接電路に触れる作業)
  • 活線近接作業(電気が流れている電路に、定められた距離以内に近づいて行う作業)

これらの業務に少しでも関わる可能性がある従業員は、すべて特別教育の対象者となります。正社員や契約社員、アルバイトといった雇用形態は一切関係ありません。

もし資格なしで作業したら…?知っておきたい罰則とリスク

万が一、事業者が従業員にこの特別教育を受けさせないまま、対象となる危険な作業に従事させた場合、それは明確な法律違反となります。

労働安全衛生法第119条の規定により、違反した事業者には「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。この罰則の対象は、指示に従って作業した従業員本人ではなく、安全管理体制を構築する義務を怠った事業者です。

これは高圧電気の作業に限った話ではありません。例えば、高所作業で必須となるフルハーネス型墜落制止用器具を無資格で使用した場合のリスクについても、同様に厳しい罰則が定められています。

しかし、罰則以上に深刻なのは、実際に感電事故が発生してしまうという取り返しのつかないリスクです。一度重大な労働災害が発生すれば、法的な罰則はもちろんのこと、企業の社会的信用の失墜、高額な損害賠償、他の従業員への心理的な悪影響など、計り知れないダメージを受けることになります。従業員の命と会社の信頼を守るためにも、法令を遵守した教育の実施は、事業者にとって最低限の責務なのです。

講習では何を学ぶ?カリキュラムを徹底解剖

高圧・特高電気取扱者特別教育は、単に話を聞くだけの座学ではありません。感電という重大な災害を確実に防ぐため、理論を学ぶ「学科講習」と、安全な手順を体で覚える「実技講習」の二部構成でカリキュラムが組まれています。

この内容は、労働安全衛生法に基づく「労働安全衛生特別教育規程」によって全国共通で定められています。そのため、どの講習機関で受講しても、安全作業に不可欠な知識と技能を体系的に、漏れなく習得することが可能です。

【学科】感電災害を防ぐための専門知識

学科講習では、高圧・特別高圧電気が持つ特有の危険性から、設備の構造、正しい作業方法、関連する法律、そして万が一の際の救急措置まで、非常に専門的で幅広いテーマを学びます。

なぜ高圧電気は近づくだけで危険なのか、どのような安全装置があるのか、どんな保護具を身につけるべきかといった、理論的な裏付けをしっかりと身につけることで、現場での的確な危険予知と安全行動に繋げます。

学科講習で学ぶ主な内容

  • 高圧(特別高圧)の電気に関する基礎知識
  • 高圧(特別高圧)の電気設備に関する基礎知識
  • 高圧(特別高圧)用の安全作業用具に関する基礎知識
  • 高圧(特別高圧)の活線作業及び活線近接作業の方法
  • 関係法令
  • 救急処置(心肺蘇生法など)

【実技】安全な操作手順を身体で覚える

学科で学んだ知識を、実際の現場で使える「生きた技術」へと昇華させるのが、実技講習の目的です。頭で理解しているだけでは、いざという時に体が動かないことも少なくありません。

この講習では、キュービクルを模した実習設備などを使用し、経験豊富な講師の指導のもとで、安全作業の一連の流れを体験的に習得します。

実技講習で学ぶ主な内容

  • 受変電設備の操作方法
  • 検電器による充電の有無の確認
  • 短絡接地器具の取付け・取外し
  • 絶縁用保護具・防護具の点検及び装着

特に、作業前に電気が来ていないことを確認する「検電」や、万が一の誤送電を防ぐための「短絡接地」は、安全を確保するための基本中の基本であり、絶対にミスが許されない作業です。

全部で何時間?法定講習時間と日数の目安

この特別教育の講習時間は、対象となる電圧や業務内容によって、法律で厳密に定められています。

法定講習時間

対象業務学科実技合計日数目安
高圧7時間1時間以上8時間以上1~2日間
特別高圧7時間2時間以上9時間以上2日間
充電電路の操作のみ4時間1時間以上5時間以上1日間

このように、扱う電圧が高くなるほど、また業務範囲が広くなるほど、より長い講習時間が必要となります。一般的には、1日から2日間かけて実施されるコースが主流です。

なお、すでに「低圧電気取扱業務特別教育」を修了している方や、電気工事士などの資格を持っている方は、一部の学科が免除され、講習時間が短縮される場合があります。ご自身が該当するかどうかは、受講を検討している講習機関に直接問い合わせてみるのが確実です。

受講方法から費用まで!気になるポイントまとめ

さて、高圧・特高電気取扱者特別教育の重要性や学習内容をご理解いただいたところで、次はいよいよ実践的なステップに進みましょう。

「講習を受けたいけれど、具体的にどこで申し込めばいいの?」「結局、費用はいくらで、何日かかるの?」といった、受講を決める上で最も気になるであろう疑問点について、一つひとつ丁寧に解説していきます。このセクションを読めば、受講までの道のりが明確になるはずです。

費用はいくらくらい?料金相場と助成金の話

受講にあたって、やはり最も気になるのが費用ではないでしょうか。これらは講習機関やコース内容(高圧のみか、特高まで含むか)によって差がありますが、一般的な目安を知っておくことで、計画が立てやすくなります。

料金の目安

項目目安補足
受講費用20,000円 ~ 40,000円程度テキスト代、修了証発行手数料が含まれている場合がほとんどです。昼食代や会場までの交通費は別途必要となります。

費用に幅があるのは、実習設備の充実度や、講師の専門性などが影響するためです。複数の講習機関のウェブサイトを見比べて、ご自身の予算に合ったところを選びましょう。

また、企業が従業員にこの教育を受けさせる場合、厚生労働省が管轄する「人材開発支援助成金」などの制度を利用できる可能性があります。これは、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されるもので、企業の負担を大きく軽減できます。

なお、人材開発支援助成金をはじめ、特別教育・安全衛生教育の補助金・助成金まとめ【2025年版】については、こちらの記事で詳しくまとめていますので、ぜひご活用ください。

誰でも受けられる?受講資格について

この特別教育は、感電という重大なリスクから作業者を守るためのものであるため、受講にあたって特別な実務経験や電気の専門知識は一切必要ありません。カリキュラムは、電気の基礎から丁寧に解説するように作られていますので、どなたでも安心してご参加いただけます。

ただし、年齢に関しては注意が必要です。法律上、高圧電気の取扱業務のような危険な作業に18歳未満の者を就かせることは禁止されています。このため、ほとんどの講習機関では、受講資格を「満18歳以上」と定めています。

申し込みから修了証ゲットまでの流れ

受講したい講習機関が決まったら、修了証を手にするまでの流れは概ね以下のようになります。一つひとつのステップは決して難しくありませんので、落ち着いて進めましょう。

ステップ1:講習機関を探し、日程を決める

まずは、講習を実施している登録教習機関を探します。インターネットで「高圧電気取扱者特別教育 (地域名)」などと検索し、ウェブサイトでご自身の都合に合う開催日程や場所を確認しましょう。

ステップ2:申し込み手続きを行う

受講したいコースが決まったら、申し込みを行います。ウェブサイトの専用フォームからの申し込みが主流ですが、FAXや郵送で申込書を送付する場合もあります。

ステップ3:受講料の支払いと持ち物の確認

申し込みが受理されると、受講料の支払いに関する案内が届きます。指定された期日までに、銀行振込などで支払いを済ませましょう。また、当日に必要な持ち物(本人確認書類、筆記用具、実技に適した服装など)を案内状でしっかり確認しておきます。

ステップ4:講習の受講と修了証の交付

講習当日は、時間に余裕を持って会場へ向かいます。定められたカリキュラムを全て真面目に受講すれば、最終日に「高圧・特高電気取扱者特別教育修了証」が交付されます。この修了証は、あなたが有資格者であることを証明する大切なものですので、紛失しないよう大切に保管してください。

これってどうなの?関連資格や法律のよくある質問

講習の概要や申し込み方法がわかってくると、今度は「あの国家資格を持っていれば、この教育は受けなくてもいいの?」「一度取ったらずっと使えるの?」といった、より具体的な疑問が湧いてきますよね。

ここでは、高圧・特高電気取扱者特別教育に関して、多くの方が抱く疑問点について、一つひとつ分かりやすくお答えしていきます。

「電気主任技術者」の資格があれば免除される?

結論から申し上げると、たとえ難関国家資格である「電気主任技術者」の免状を持っていても、この特別教育は免除されません。別途、受講する必要があります。

なぜなら、この二つの資格は、その目的と根拠となる法律が全く異なるからです。

資格の目的の違い

比較項目高圧・特高電気取扱者特別教育電気主任技術者
目的作業者自身の安全を守るための教育電気工作物の工事、維持、運用の保安を監督するための資格
根拠法令労働安全衛生法電気事業法
役割作業を行うプレイヤー現場全体を監督するマネージャー

電気主任技術者は、電気設備全体の安全を管理・監督する立場であり、その選任は電気事業法で定められています。一方、特別教育は、実際に電気設備に触れる可能性のある作業者一人ひとりの安全を守るために、労働安全衛生法で事業者に義務付けられているものです。

このように、両者は役割が異なるため、片方の資格がもう片方を代替することはないのです。資格制度全体の仕組みをより深く理解したい方は、特別教育と技能講習の違いを解説したこちらの記事も参考にしてください。

修了証に有効期限や更新手続きはある?

この特別教育の修了証には、自動車の運転免許証のような有効期限は設定されていません。したがって、定期的な更新手続きも一切不要です。一度、この教育を修了すれば、その資格は原則として生涯有効となります。

ただし、電気設備や安全技術は日々進歩しています。そのため、事業者の判断により、定期的に知識をアップデートするための再教育(安全衛生教育)が行われることがあります。これは法的な義務ではありませんが、より高いレベルで安全性を維持し、企業の安全配慮義務を果たすために推奨されるものです。

また、修了証を紛失したり、破損してしまったりした場合は、講習を受けた機関に問い合わせることで再発行が可能です。

会社の担当者向け|出張講習という選択肢も

受講対象者が複数名いる企業の場合、講師を会社に招いて講習を実施する「出張講習(講師派遣)」を利用するのが非常に効率的です。

出張講習のメリット

  • コスト削減: 受講者が会場へ移動するための交通費や、場合によっては宿泊費がかかりません。
  • 日程の柔軟性: 会社の業務スケジュールに合わせて、講習日を柔軟に設定できます。
  • 実践的な訓練: 自社のキュービクルなどの設備を使って実技教育を行える場合があり、より業務に即した実践的な訓練が可能です。

一定の受講人数(5名以上など)が集まることが条件となる場合が多いですが、企業単位での受講を計画している場合は、各講習機関に一度問い合わせてみる価値は十分にあります。

特に建設業で必要な特別教育は多岐にわたるため、他の教育と合わせて計画的に出張講習を実施することで、現場の安全管理体制を効率よく強化できます。

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