特別教育と技能講習の違い|対象業務・取得方法・必要な資格を徹底解説!

特別教育と技能講習の違い、ご存知ですか?自社の業務はどちらが必要か、費用は、無資格のリスクは何か、と悩む担当者の方は少なくありません。本記事では、両者の違いを比較表で分かりやすく整理し、対象業務や取得方法、費用感まで徹底解説。安全な職場づくりのため、ぜひご活用ください。
目次
結局何が違うの?特別教育と技能講習のキホン
建設現場や工場で働く上で、必ず耳にする「特別教育」と「技能講習」。どちらも安全に作業を行うために法律で定められた重要な制度ですが、この二つの違いを正しく理解している方は意外と少ないかもしれません。
「うちの会社の作業はどっちが必要なんだろう?」「片方だけ受けておけば大丈夫?」といった疑問は、安全管理の第一歩です。ここでは、そんな二つの制度の根本的な違い、いわば「キホンのキ」から分かりやすく解説していきます。
まずはココから!危険度で決まる2つの区分
二つの制度を分ける最も大きなポイントは、対象となる作業の「危険度の高さ」です。国は、労働安全衛生法という法律で、作業のリスクに応じて、事業者が実施すべき教育レベルを定めています。
- 特別教育 比較的危険性が低い、しかし専門的な知識がなければ事故につながる可能性のある作業が対象です。例えば、フルハーネスの正しい使い方や、小型建設機械の操作などがこれにあたります。
- 技能講習 死亡・重大災害に直結する可能性が高い、特に危険な作業が対象です。1トン以上のフォークリフトやクレーンの運転、玉掛け作業などが該当し、この講習を修了しなければ、法律上その業務に就くこと自体ができません(就業制限業務)。
つまり、「安全に作業するための知識を学ぶ」のが特別教育、「特定の危険業務に就くためのライセンスを取得する」のが技能講習、とイメージすると分かりやすいでしょう。
一目でわかる!ざっくり比較表
言葉での説明に加えて、二つの違いを視覚的に比較できる早見表をご用意しました。この表で全体像を掴んでおくと、後の詳細な解説がよりスムーズに頭に入ってきます。
項目比較
項目 | 特別教育 | 技能講習 |
---|---|---|
対象作業の危険度 | 比較的軽度の危険・有害作業 | 重大災害につながる高リスク作業 |
法律上の根拠 | 労働安全衛生規則 第36条 | 労働安全衛生法 第61条(就業制限) |
実施できる人 | 事業者(社内講師でも可) | 国の登録を受けた教習機関のみ |
修了証の効力 | 社内でのみ有効(原則) | 全国どこでも通用する公的な資格 |
未受講での罰則 | 指導・是正勧告が中心 | 書類送検・刑事罰の対象に |
「特別教育」は社内向け、「技能講習」は国家資格レベル
比較表の内容をもう少し掘り下げてみましょう。資格としての「効力」に大きな違いがあります。
「特別教育」は、法律上の位置づけとしては事業者(会社)が主体となって行う「社内教育」です。もちろん、外部の講習機関に委託することもできますが、自社で経験豊富な従業員を講師として実施することも可能です。そのため、修了証の効力は、原則としてその会社に在籍している間のみ有効と解釈されることが多く、転職した際に新しい会社で再受講を求められるケースも少なくありません。
一方、「技能講習」は、国が定めた厳格な基準をクリアした「登録教習機関」でしか実施できません。社内で気軽に開催できるものではなく、修了試験に合格して初めて資格が与えられます。その分、修了証は全国どこでも通用する公的な資格となり、個人のスキルを証明する一生モノのライセンスとして、履歴書にも堂々と記載することができます。
「特別教育」を詳しく!対象業務と取得方法
特別教育は、技能講習ほどリスクは高くないものの、「正しい知識がなければ事故につながる恐れのある作業」を安全に行うために、法律で定められた教育制度です。作業手順や安全装置の正しい使い方、潜んでいる危険などを体系的に学びます。
ここでは、どのような作業が特別教育の対象となるのか、そして実際に資格を取得するにはどうすれば良いのか、具体的なステップを解説していきます。自社の業務が該当しないか、ぜひチェックしてみてください。
うちの作業は対象?代表的な業務一覧
労働安全衛生規則第36条では、特別教育が必要な業務が具体的に定められています。以下に、特に建設業や製造業でよく見られる代表的な業務をまとめました。
特別教育が必要な主な業務
分類 | 具体的な業務内容 |
---|---|
高所作業 | ・高さ2m以上で作業床の設置が困難な場所での、フルハーネス型墜落制止用器具を用いる作業 ・作業床の高さが10m未満の高所作業車の運転 |
建設機械 | ・機体質量3トン未満の車両系建設機械(ミニバックホウなど)の運転 ・最大積載量1トン未満の不整地運搬車の運転 |
電気作業 | ・低圧(直流750V以下、交流600V以下)の充電電路の敷設や修理、点検など ・高圧(~7,000V)または特別高圧(7,000V超)の電気取扱業務 |
研削・切断 | ・グラインダーなどの自由研削といしの取替え、試運転 ・チェーンソーを用いた伐木作業 |
有害環境 | ・酸素欠乏危険場所(マンホール、タンク内など)での作業 ・石綿(アスベスト)が使用されている建築物の解体・改修作業 |
ここに挙げたのはあくまで一例です。自社の業務が対象かどうか正確に判断するためには、厚生労働省のウェブサイトなどで最新の法令を確認することが重要です。また、建設業で必要となる特別教育にはどのような種類があるか、こちらの記事で網羅的に解説していますので、併せてご確認ください。
どうやって取る?社内開催と外部講習の2パターン
特別教育の実施方法には、大きく分けて2つのパターンがあります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社に合った方法を選びましょう。
取得方法の比較
実施方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
社内開催 | ・業務の都合に合わせて日程を自由に組める ・受講者が多い場合、コストを抑えられる ・自社の設備を使った、より実践的な教育が可能 | ・講師(十分な知識・経験者)を自社で用意する必要がある ・教材の準備や、教育記録の作成・保管に手間がかかる |
外部講習 | ・講師や教材の準備が不要で、手間がかからない ・法改正などの最新情報に基づいた質の高い教育が受けられる ・公的な修了証が発行される | ・決められた日時に合わせる必要がある ・受講費用や、会場までの交通費がかかる |
初めて特別教育を実施する企業や、対象者が少ない場合は、専門の教育機関が開催する「外部講習」に参加するのが最も手軽で確実です。一方、定期的に多くの従業員が受講する必要がある場合は、「社内開催」の体制を整えることで、長期的にはコストを抑えられる可能性があります。
費用は?修了証はずっと使える?
費用について
外部の講習機関を利用する場合、費用は講習内容によって異なりますが、おおむね一人あたり1万円から2万円程度が相場です。この費用には、テキスト代や修了証の発行手数料が含まれていることがほとんどです。
なお、企業が従業員にこれらの教育を受けさせる場合、国の助成金を活用して費用負担を軽減できる可能性があります。利用できる補助金・助成金制度については、こちらのまとめ記事で詳しく解説していますので、ぜひご活用ください。
修了証の有効期限と効力について
特別教育の修了証には、法律上の有効期限はありません。したがって、一度取得すれば更新手続きは不要です。
ただし、非常に重要な注意点があります。特別教育はあくまで「事業者(会社)が実施する教育」という位置づけのため、その効力は原則として、その会社に在籍している間のみ有効です。転職した場合は、新しい会社の方針で再受講を求められることが多いと理解しておきましょう。
また、事業者は、特別教育を実施した記録(受講者、科目など)を3年間保存する義務があります。
より専門的な「技能講習」|対象業務と取得方法
特別教育が作業の安全知識を学ぶ「教育」であるのに対し、「技能講習」は、一歩間違えれば死亡・重大災害に直結する、特に危険性の高い業務に就くために必須となる「資格」です。
法律では、こうした高リスク作業を「就業制限業務」と定めており、技能講習を修了した者でなければ、その仕事に就くこと自体が固く禁じられています。ここでは、その対象業務や取得方法について、特別教育との違いに注目しながら詳しく見ていきましょう。
こんな作業は技能講習が必須!対象業務一覧
以下に挙げるのは、労働安全衛生法第61条で定められた「就業制限業務」の代表例です。これらの業務を行うためには、必ず対応する技能講習を修了し、その資格証を携帯していなければなりません。
技能講習が必要な主な業務
分類 | 具体的な業務内容(特別教育との境界線) |
---|---|
運搬・揚重 | ・最大荷重1トン以上のフォークリフトの運転 ・つり上げ荷重1トン以上のクレーン、移動式クレーン、デリックの玉掛け作業 |
建設機械 | ・機体質量3トン以上の車両系建設機械(ブルドーザー、パワーショベルなど)の運転 ・不整地運搬車(最大積載量1トン以上)の運転 |
高所作業 | ・作業床の高さが10メートル以上の高所作業車の運転 |
ガス溶接 | ・可燃性ガス及び酸素を用いた金属の溶接、溶断、加熱の作業 |
その他 | ・発破の業務 ・ボイラー(小規模ボイラーを除く)の取扱いの業務 |
このように、特別教育との境界線は、機械の大きさや重さ(1t、3t、10mなど)で明確に定められています。
取得までの流れは?登録教習機関で受講しよう
技能講習は、社内で実施できる特別教育とは異なり、国が定めた基準をクリアした「登録教習機関」でしか受講できません。
取得までの基本的な流れは以下の通りです。
- 教習機関を探し、申し込む 厚生労働省のウェブサイトなどで、お住まいの地域の登録教習機関を探し、希望する講習のスケジュールを確認して申し込みます。
- 学科・実技講習を受講する 教習機関に出向き、法律で定められたカリキュラム(通常2~5日程度)の学科講習と実技講習を受けます。
- 修了試験に合格する 講習の最後に、学科と実技それぞれの修了試験が行われます。この試験に合格する必要があります。
- 修了証を受け取る 試験に合格すると、その場で技能講習修了証が交付されます。これは全国どこでも通用する公的な資格証となります。
ここが違う!実務経験が必要になるケースも
技能講習と特別教育の大きな違いの一つに、「受講資格」があります。特別教育は誰でも受講できますが、一部の技能講習では、申し込みの前提として一定の「実務経験」が求められる場合があります。
例えば、「玉掛け技能講習」を受ける場合、いきなり申し込むことはできず、
- 先に「玉掛け特別教育(1t未満)」を修了し、6ヶ月以上の実務経験を積む
- または、1年以上の玉掛け補助作業の経験がある
といった条件を満たす必要があります。これは、高リスクな作業を学ぶにあたり、基礎的な知識や安全意識が備わっていることが前提となるためです。
このように、目指す資格によっては、「まず特別教育を受けて経験を積み、それから技能講習にステップアップする」というキャリアプランが必要になることを覚えておきましょう。
【実践編】自社に必要なのはどっち?判断チェックリスト
ここまで、特別教育と技能講習の制度的な違いを解説してきました。しかし、実際の現場では「うちのこの作業は、具体的にどっちに当てはまるんだろう?」と判断に迷う場面も多いはずです。
このセクションでは、具体的な作業シーンを基に、どちらの教育が必要になるのかを判断するための、実践的なチェックリストとQ&Aをご用意しました。自社の安全管理体制に漏れがないか、確認してみましょう。
この作業はどっち?具体的なケースで確認
以下の表は、建設現場や工場でよく見られる作業について、必要な資格を一覧にしたものです。「自社の作業」と「必要な資格」の欄を指で追いながら、確認してみてください。
作業別 資格判断リスト
こんな作業をします | 必要なのはどっち? |
---|---|
【フォークリフト】 | |
倉庫で、最大荷重800kgのバッテリーフォークリフトを運転する | 特別教育 |
工場で、最大荷重1.5トンのカウンターフォークリフトを運転する | 技能講習 |
【高所作業】 | |
ビルメンテナンスで、高さ8mまで伸びる高所作業車を操作する | 特別教育 |
橋梁点検で、高さ15mの橋梁点検車を操作する | 技能講習 |
高さ5mの場所で、フルハーネスを着用して作業する | 特別教育 |
【建設機械】 | |
道路工事で、機体質量2.5トンのミニバックホウを運転する | 特別教育 |
宅地造成で、機体質量10トンのブルドーザーを運転する | 技能講習 |
【玉掛け作業】 | |
クレーンで900kgの資材を吊るために、ワイヤーを掛ける | 特別教育 |
クレーンで2トンの鉄骨を吊るために、ワイヤーを掛ける | 技能講習 |
このように、判断の分かれ目は機械の「重さ」「高さ」「吊り上げ荷重」といったスペックであることがほとんどです。使用する機械の仕様書などを確認し、正確な数値を把握することが重要です。
「OJTだけでOK」は間違い!よくある誤解Q&A
現場では、長年の慣習からくる誤解や、「知らなかった」では済まされない思い込みが、重大なリスクに繋がることがあります。ここでは、企業の担当者様からよくいただく質問とその回答をまとめました。
Q1. ベテラン作業員で、長年の経験があるのですが、それでも講習は必要ですか?
A1. はい、必ず必要です。 労働安全衛生法で定められた教育は、年齢や経験年数に関わらず、対象業務に従事するすべての人に義務付けられています。OJT(現場での実地教育)や、長年の経験だけで代えることはできません。
Q2. 1日だけの短時間の作業でも、資格は必要ですか?
A2. はい、必要です。 法律上の義務は、作業時間の長短とは一切関係ありません。たとえ数分間の作業であっても、対象となる危険業務を行う場合は、必ず事前に定められた教育を修了している必要があります。
Q3. 元請けの会社から「資格証のコピーを出して」と言われました。なぜですか?
A3. 元請け会社には、下請け作業員の安全管理を監督する責任があるためです。 万が一、下請けの作業員が無資格で作業して事故を起こした場合、元請け会社の安全管理責任も問われる可能性があります。そのため、現場に入る前に、作業員が適切な資格を持っているかを確認するのは、元請けとしての当然の義務なのです。
Q4. 特別教育の修了証を持っていれば、どの会社の現場でも作業できますか?
A4. いいえ、原則としてできません。 前述の通り、特別教育は「事業者(会社)が実施する教育」です。そのため、A社で受けた特別教育の効力は、A社での業務に限定されます。B社の現場で作業する場合は、B社で改めて特別教育を受け直すか、B社がA社での教育内容を同等以上と認める必要があります。一方、技能講習の修了証は、全国どの現場でも通用する公的な資格です。
もし受けなかったら…?知っておきたい罰則と重大リスク
「日々の業務が忙しくて、教育まで手が回らない」「費用がかかるから、後回しにしたい」――。
企業の担当者様の中には、そうした本音をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、特別教育や技能講習の受講を怠ることは、単なるルール違反では済まされません。それは、企業経営そのものを揺るがしかねない、非常に深刻なリスクを抱え込むことを意味します。
ここでは、無資格作業がもたらす3つの重大なリスクについて、具体的に解説します。
法律違反による罰則の話
特別教育や技能講習の実施は、法律で定められた企業の「義務」です。したがって、これを怠れば当然、法的なペナルティが科せられます。
労働安全衛生法第119条には、特別教育の未実施に対する罰則として「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が定められています。技能講習が必要な「就業制限業務」に無資格者をつかせた場合は、さらに重い罰則の対象となる可能性があります。
重要なのは、この罰則は「事故が起きていないから大丈夫」というものではない、ということです。労働基準監督署による立ち入り調査などで未実施が発覚した場合でも、是正勧告や指導、場合によっては罰則の対象となります。これは特定の資格に限った話ではありません。例えば、フルハーネス型墜落制止用器具を無資格で使用した場合のリスクについても、同様に厳しい罰則が定められており、安全教育の重要性がわかります。
事故が起きた時の補償問題
これが最も深刻なリスクかもしれません。万が一、無資格の作業員が労働災害を起こしてしまった場合、企業は「安全配慮義務違反」という重い責任を問われることになります。
具体的には、以下のような事態が想定されます。
- 労災保険給付への影響: 通常の業務災害であれば労災保険から給付がなされますが、無資格運転のような明確な法令違反があった場合、保険給付が一部制限されたり、企業が国に費用を請求されたりする可能性があります。
- 高額な損害賠償: 労災保険の給付だけではカバーしきれない損害について、被災した従業員やその家族から、企業が直接、損害賠償請求訴訟を起こされるリスクが非常に高くなります。
教育コストを惜しんだ結果、数千万円、時には億単位の賠償金を支払うことになるケースも決して珍しくありません。
「安全意識が低い会社」という経営リスク
労働災害や法令違反がもたらす影響は、現場や法的なものだけにとどまりません。最終的には、会社の存続そのものを脅かす「経営リスク」へと発展します。
- 信用の失墜: 事故や法令違反がニュースやインターネットで報じられれば、「従業員の安全を軽視する会社」というネガティブな評判は一瞬で広がります。
- 事業機会の損失: 元請け企業や取引先からの信頼を失い、契約を打ち切られる可能性があります。特に公共事業を請け負っている場合、指名停止処分を受け、入札に参加できなくなるケースは致命的です。
- 人材の流出と採用難: 安全でない職場環境では、優秀な人材は定着しません。また、企業の評判が悪化すれば、新たな人材を確保することも困難になります。
このように、たった一つの教育を怠ったことが、企業の事業基盤そのものを破壊する引き金になりかねないのです。
参考URL
本記事で解説した特別教育や技能講習、またその根拠となる法律について、より詳細な情報や原文を確認したい場合は、以下の公的なウェブサイトが非常に役立ちます。
- 厚生労働省 | 職場のあんぜんサイト 労働安全衛生に関する法令や通達、各種教育の概要、災害事例など、信頼性の高い情報が網羅されています。特別教育や技能講習の対象業務を調べる際の基本となるサイトです。
- e-Gov法令検索 | 労働安全衛生法 本記事で解説した多くの義務の根拠となる法律の原文を直接確認することができます。
- e-Gov法令検索 | 労働安全衛生規則 特別教育が必要な業務が具体的に定められている第36条などを確認できる省令です。
- 厚生労働省 | 登録教習機関一覧 技能講習を実施している、厚生労働大臣の登録を受けた教習機関を全国から検索することができます。お近くの講習機関を探す際に便利です。
“特別教育と技能講習の違い|対象業務・取得方法・必要な資格を徹底解説!” に対して1件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。