騒音障害防止対策のための労働衛生教育とは?|義務・対象・カリキュラムを解説!

騒音障害防止対策のための労働衛生教育は、騒音作業に従事する労働者の健康を守るために不可欠です。この教育は法律で義務付けられているのか、具体的に誰が対象で、どのようなカリキュラムなのでしょうか。本記事で、その目的や内容、実施方法に関する疑問を解消します。

騒音障害防止対策のための労働衛生教育、まずは基本から

工場や建設現場など、大きな音が発生する職場で働く方々の健康を守るために、法律で定められた重要な教育があります。それが「騒音障害防止対策のための労働衛生教育」です。

まずはこの教育がどのようなもので、なぜ必要なのか、基本的なポイントから見ていきましょう。

そもそもどんな教育?目的をわかりやすく解説

この教育の最大の目的は、大きな騒音に長期間さらされることで引き起こされる「騒音性難聴」という健康障害を未然に防ぐことにあります。騒音性難聴は、一度発症すると聴力の回復が非常に難しいとされており、少しずつ進行するため自覚しにくいのが特徴です。

そのため、騒音が発生する職場で働く労働者一人ひとりが、騒音の危険性を正しく理解し、防音保護具の適切な使い方や健康管理の方法などを学ぶことが不可欠です。この教育は、労働者自身の健康を守るための知識を身につける大切な機会となります。

法律で定められた事業者の義務です

騒音障害防止対策のための労働衛生教育の実施は、労働安全衛生法第59条第2項に基づき、事業者に課せられた義務です。具体的には、厚生労働省が定める特定の騒音作業に労働者を従事させる場合、事業者は必ずこの安全衛生教育を行わなければならないと定められています。

もし、この義務を怠った場合、法律による罰則の対象となる可能性があります。それだけでなく、万が一労働災害が発生した際には、企業の安全配慮義務違反が問われることにもなりかねません。従業員の安全と健康を守り、健全な企業活動を続けるためにも、法令を遵守した教育の実施が求められます。

なお、労働安全衛生法では、業務内容に応じて様々な教育が定められています。騒音衛生教育は「安全衛生教育」の一つですが、他にも特定の危険有害業務に必要な「特別教育」や、より専門的な「技能講習」などがあります。それぞれの違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

特別教育と技能講習の違い|対象業務・取得方法・必要な資格を徹底解説!

この教育、誰が受けなきゃいけないの?

では、具体的にどのような業務に、どのような立場の人が従事する場合に、この騒音衛生教育が必要になるのでしょうか。自社が該当するかどうかを確認するためにも、対象となる業務と労働者の範囲を正確に把握しておきましょう。

対象となる業務と労働者をチェック

この教育の対象となるのは、厚生労働省が公表している「騒音障害防止のためのガイドライン」において、等価騒音レベルが85dB(A)以上になる可能性が高いとされる作業場で行われる業務です。

85dB(A)というと、具体的には「地下鉄の車内」や「大きな声での会話が困難なほどの騒音」をイメージすると分かりやすいかもしれません。このような環境下で、該当する業務に常時従事する労働者が教育の対象となります。

対象業務の具体例は以下の通りです。

対象業務の例
鋲打ち機、はつり機、インパクトレンチ等、圧縮空気により駆動する機械器具を取り扱う業務
ロックドリル、コールピック等、さく岩機、さく孔機を取り扱う業務
金属を鍛造、圧延、成形、切断するプレス、せん断機等を取り扱う業務
鋳物の型込機、コーフブレーカー等を取り扱う業務
木材を加工する丸のこ盤、帯のこ盤、かんな盤等を取り扱う業務
織機を使用し布を織る業務
チェーンソーを用いて行う伐木・造材の業務

これらの業務に「常時従事する労働者」が教育の対象となります。

パートやアルバイトも対象になる?

結論から言うと、パートタイマーやアルバイトといった雇用形態であっても、対象となる騒音作業に常時従事する場合は、教育を受けさせる義務があります。

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を守るための法律であり、正社員や契約社員、パートタイマーといった雇用形態によってその適用が区別されることはありません。したがって、事業者は雇用形態にかかわらず、対象業務に従事するすべての労働者に対して、適切に教育を実施する必要があります。

ちなみに、業種や職種を問わず、新しく労働者を雇い入れた際には「雇入れ時安全衛生教育」の実施が義務付けられています。こちらも合わせて確認しておくとよいでしょう。

雇入れ時安全衛生教育とは?|カリキュラム・対象者・省略要件を徹底解説!

具体的に何を学ぶ?気になるカリキュラム内容

事業者が実施すべき騒音衛生教育ですが、具体的にどのような内容を、どれくらいの時間をかけて学ぶのでしょうか。教育内容は厚生労働省のガイドラインによって定められており、労働者が安全に働くために必要な知識が網羅されています。

厚生労働省が示す教育項目

騒音障害防止対策のための労働衛生教育では、以下の6つの項目について学ぶことが定められています。単に騒音の危険性を知るだけでなく、具体的な対策や自己管理の方法まで、実践的な知識を習得することが目的です。

以下が、定められた教育カリキュラムの項目です。

教育科目
騒音の人体に及ぼす影響
作業環境管理(騒音の測定、騒音源対策等)
作業管理(作業時間、ばく露時間の管理等)
保護具に関する知識(種類、性能、使用方法等)
健康管理(健康診断とその結果に基づく措置等)
関係法令

これらの教育を通じて、なぜ対策が必要なのかという根本的な理由から、耳栓やイヤーマフといった保護具の正しい使い方、健康診断の重要性まで、幅広く学習します。

教育時間の目安はどれくらい?

教育にかけるべき時間も、ガイドラインで目安が示されています。すべての科目を合わせて、合計で4.5時間以上の教育を実施することが求められます。

各科目の標準的な時間配分は以下の通りです。

教育科目時間
騒音の人体に及ぼす影響0.5時間
作業環境管理1.0時間
作業管理0.5時間
保護具に関する知識1.0時間
健康管理1.0時間
関係法令0.5時間
合計4.5時間

これはあくまで標準的な時間であり、事業場の実態に合わせて内容を充実させることは問題ありません。この教育は、対象業務に新たに従事する労働者に対して必ず実施する必要があり、科目を省略することは認められていませんので注意が必要です。

どうやって実施する?社内教育と外部講習

騒音衛生教育を実施すると決まったら、次に考えるのは「どのように実施するか」です。実施方法には、大きく分けて「自社で教育を行う方法」と、「外部の専門機関が開催する講習会に参加する方法」の2つがあります。それぞれの特徴を理解し、自社に合った方法を選びましょう。

社内で実施する場合のポイント

自社で教育を実施する最大のメリットは、コストを比較的低く抑えられ、業務の都合に合わせて柔軟に日程を組める点です。ただし、実施にあたってはいくつかの重要なポイントがあります。

まず、講師は誰が務めるかという点です。講師は、騒音障害防止に関して十分な知識と経験を持つ人が担当する必要があります。例えば、衛生管理者や作業主任者、あるいは産業医などが適任でしょう。

次に、教育内容です。厚生労働省が示すカリキュラムに沿った教材を自社で準備しなければなりません。自社の作業環境や使用している機械の具体例を交えながら説明することで、受講者の理解をより深めることができます。また、教育を実施した後は、その記録(日時、場所、講師名、受講者名、教育内容など)を作成し、3年間保管する義務があることも忘れてはいけません。

外部の講習機関を利用するメリット

社内に適任の講師がいない場合や、教材作成などの手間を省きたい場合には、外部の講習機関を利用するのが確実な方法です。

専門の講師による質の高い講義を受けられるため、最新の法令や知見に基づいた正確な知識を効率的に学ぶことができます。また、教材の準備やスケジュール調整といった管理部門の負担を大幅に軽減できる点も大きなメリットです。講習を修了すると修了証が発行されるため、教育記録の管理も容易になります。

講習の形式には、指定された会場に集まって受講する「会場講習」のほか、講師を自社に招いて実施する「出張講習」もあります。受講人数が多い場合は、出張講習を利用すると移動時間やコストを節約できるでしょう。

どのくらいの費用がかかるか気になる方は、簡単な入力で概算費用がわかる料金シミュレーターもご用意していますので、ぜひご活用ください。

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どちらの方法が良いか迷う場合や、自社の状況に合わせたプランを知りたい方は、お気軽に一度ご相談ください。

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ここが知りたい!騒音衛生教育のよくある質問

騒音衛生教育の導入を検討する中で、担当者の方が抱きやすい疑問について、Q&A形式でお答えします。細かい点までしっかり確認し、スムーズな教育実施に繋げましょう。

教育記録の保管は必要?

はい、教育を実施した記録を作成し、3年間保管することが法律で義務付けられています。

労働安全衛生法では、安全衛生教育の実施内容について記録を作成し、これを保存するよう定められています。具体的には、以下の項目を記載した記録を作成し、いつでも確認できる状態にしておく必要があります。

  • 教育の科目
  • 受講者の氏名
  • 教育を実施した日時、場所
  • 講師名

この記録は、労働基準監督署による調査の際に提示を求められることがあるほか、企業の安全管理体制を証明する重要な書類となります。

再教育はどのくらいの頻度で?

騒音衛生教育には、法律で定められた明確な再教育の義務や頻度はありません。しかし、安全意識の維持・向上や、知識のアップデートのために、定期的な再教育が強く推奨されています。

一般的には、他の安全衛生教育(職長教育など)のサイクルを参考に、「おおむね5年ごと」を目安に再教育を行うのが望ましいとされています。また、作業方法が大きく変わったり、新しい機械設備を導入したりしたタイミングで、改めて教育を実施することも重要です。

関連する教育として、職長などを対象とした職長教育・安全衛生責任者教育も定期的な再教育が推奨されていますので、合わせて確認しておくとよいでしょう。

オンライン(eラーニング)でも大丈夫?

はい、厚生労働省が示す一定の要件を満たしていれば、オンライン形式(eラーニング)での実施も認められています。

オンラインで実施する場合、以下の条件を満たす必要があります。

  • 受講者本人による学習であることを確認できる仕組みがあること
  • 学習内容について、講師へ質問できる機会が確保されていること(メールやチャットなど)
  • 受講者の学習履歴を事業者側が適切に管理できること

時間や場所を選ばずに受講できるオンライン教育は非常に便利ですが、これらの要件を満たさないものは正式な教育として認められない可能性があります。導入を検討する際は、提供されるシステムが法令の要件に準拠しているかを必ず確認しましょう。

その他、教育の実施に関してご不明な点があれば、「よくある問い合わせ」のページもぜひご覧ください。

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まとめ:適切な労働衛生教育で従業員の健康を守ろう

この記事では、騒音障害防止対策のための労働衛生教育について、その目的や法律上の義務、対象者、カリキュ-ラムといった基本的な内容から、具体的な実施方法までを解説しました。

大きな音に囲まれた環境で働く従業員の聴力を守り、騒音性難聴という深刻な職業性疾病を防ぐために、この教育は欠かせません。教育の実施は、法律で定められた事業者の義務であると同時に、従業員が安心して働ける職場環境を築くための重要な取り組みです。

自社の作業環境を改めて確認し、対象となる従業員がいないかチェックすることから始めましょう。その上で、社内での実施が難しい場合や、より専門的な教育を効率的に行いたい場合は、外部講習の利用が有効な選択肢となります。

受講人数やご希望の場所に合わせて、講師を派遣する出張講習や、各地で開催される会場講習など、最適なプランをご提案できます。費用が気になる方は、まずは料金シミュレーターで概算を確認してみてはいかがでしょうか。

従業員の安全と健康は、企業の成長を支える基盤です。計画的な労働衛生教育を通じて、安全で快適な職場づくりを進めていきましょう。

参考URL

厚生労働省 職場のあんぜんサイト:騒音障害 
厚生労働省が運営するサイトで、騒音障害の概要や関連法令、対策について公的な情報がまとめられています。

厚生労働省:「騒音障害防止のためのガイドライン」の策定について 
本記事で解説した教育カリキュラムや対象業務の根拠となる、厚生労働省が策定した公式ガイドラインです。

e-Gov法令検索:労働安全衛生法 
事業者の安全衛生教育義務などを定めた法律の条文を直接確認できます。