保護具着用管理責任者教育とは?|いつから義務?講習内容と選任要件を解説!

保護具着用管理責任者教育は、2024年4月から義務化された新しい安全衛生教育です。自社は対象事業場なのか、誰を選任し、どんな講習を受けさせれば良いのか。本記事では、気になる選任要件や講習内容、罰則の有無まで、担当者が抱える疑問をスッキリ解消します。
保護具着用管理責任者って、そもそも何?
2024年から新たに始まった「保護具着用管理責任者」という制度。これまで安全管理者や衛生管理者が担ってきた業務と何が違うのか、なぜ今この役割が必要なのか、気になる点は多いでしょう。
まずは、この保護具着用管理責任者がどのような役割を担うのか、基本的なところから解説します。
2024年4月から始まった新しい選任義務です
これまでも、事業者は危険な作業を行う労働者に保護具を着用させる義務がありました。しかし、2024年4月1日の労働安全衛生規則改正により、特定の化学物質や粉じんを扱うリスクの高い作業を行う事業場では、新たに「保護具着用管理責任者」を選任することが法律上の義務となりました。
この責任者は、単に保護具を配布するだけでなく、その効果的な使用を管理し、労働者の安全を確保するための専門的な役割を担います。法改正によって新設された制度のため、自社が対象かどうかを正しく理解し、速やかに対応することが求められます。
なぜこの制度が必要?背景をわかりやすく解説
この制度が新設された背景には、保護具が支給されているにもかかわらず、正しく着用されていなかったり、適切なメンテナンスがされていなかったりしたために、労働災害に至ってしまうケースが後を絶たなかったという現実があります。
特に化学物質による健康被害は、すぐには症状が現れないことも多く、気づいた時には深刻な状態になっていることも少なくありません。こうした事態を防ぐためには、保護具に関する専門知識を持ち、着用状況の管理や保守点検、労働者への教育などを一元的に行う責任者の存在が不可欠です。
現場の安全管理という点では、作業員を直接指揮監督する職長の役割も非常に重要です。保護具の管理と合わせて、現場全体の安全体制を見直したい方は、以下の記事も参考にしてください。
職長教育・安全衛生責任者教育とは?|資格・費用・受講方法を解説!
うちの会社は対象?選任義務がある事業場をチェック
「うちの会社にも、保護具着用管理責任者が必要なのだろうか?」これは多くの担当者の方が最初に抱く疑問でしょう。すべての事業場に選任義務があるわけではなく、特定の条件に合致する場合に限られます。自社の状況と照らし合わせながら、対象となるかどうかを確認していきましょう。
対象となるリスクの高い作業とは
保護具着用管理責任者の選任が義務付けられるのは、労働者に特定の保護具を使用させる必要がある、リスクの高い作業を行う事業場です。具体的には、以下の2つのケースが該当します。
- 化学物質のリスクアセスメントの結果に基づき、労働者に保護具を使用させるとき
- 特定の粉じん作業(石綿等)や有機溶剤業務など、法令で保護具の使用が義務付けられている作業を行うとき
これらの作業は、労働者の健康に重大な影響を及ぼす可能性があるため、より厳格な管理が求められます。
対象となる作業の具体例は以下の通りです。
対象となる作業の分類 | 具体的な作業例 |
---|---|
化学物質関連 | 金属等(アーク溶接等)、特定化学物質、有機溶剤などを製造または取り扱う作業 |
粉じん関連 | 特定粉じん(石綿等)が発生する屋内作業場での作業 |
これらの作業を伴う事業場では、保護具着用管理責任者を選任する必要があります。特に、化学物質や粉じんに関する作業は、専門的な知識が求められます。関連する教育についても、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
粉じん作業に係る特別教育とは?|資格・費用・受講方法を解説!
有機溶剤業務従事者安全衛生教育とは?|資格・費用・受講方法を解説!
具体的な保護具の種類を確認しよう
選任義務の対象となるのは、上記の作業で用いる特定の保護具です。すべての保護具が対象となるわけではなく、主に呼吸用保護具と化学防護具が該当します。
対象となる保護具の種類 | 具体例 |
---|---|
呼吸用保護具 | 防じんマスク、防毒マスク、電動ファン付き呼吸用保護具、送気マスク など |
化学防護具 | 化学防護手袋、化学防護服、化学防護長靴、保護メガネ など |
ヘルメットや安全靴、墜落制止用器具(フルハーネス)などは、今回の保護具着用管理責任者の選任義務の対象となる保護具には含まれていません。ただし、これらの保護具も作業によっては着用が義務付けられており、それぞれに対応する安全教育が必要です。
例えば、高所作業で必須となるフルハーネスについては、別途特別教育が定められています。混同しないように注意しましょう。
フルハーネス型墜落制止用器具特別教育とは?|資格・費用・受講方法を解説!
誰を責任者にすればいい?気になる選任要件
自社が対象事業場だとわかったら、次に考えるべきは「誰を責任者として選任するか」です。特定の資格が必要なのか、他の役職との兼任は認められるのかなど、選任にあたっての具体的な要件を確認していきましょう。
資格や実務経験は必要?
保護具着用管理責任者になるために、衛生管理者や作業主任者のような国家資格は必要ありません。ただし、誰でもすぐになれるわけではなく、以下のいずれかの要件を満たす人の中から選任する必要があります。
- 保護具着用管理責任者教育を修了した者
- これと同等以上の知識及び経験を有すると認められる者(化学物質管理専門家、作業環境管理専門家など)
多くの企業では、実質的に「保護具着用管理責任者教育」を修了した従業員を選任することになります。この教育自体は、受講するための特別な資格や実務経験は問われないため、意欲のある人であれば誰でも受講が可能です。
とはいえ、責任者として円滑に業務を遂行するためには、現場の作業内容や保護具についてある程度の知識を持っている人が望ましいでしょう。
責任者として望ましい人物像の例 |
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衛生管理者・安全衛生推進者 |
各作業の作業主任者 |
職長その他、職務上労働者の作業を管理する立場にある者 |
保護具の管理に携わった経験がある者 |
衛生管理者や職長との兼任はできるのか
はい、衛生管理者や職長などが、保護具着用管理責任者を兼任することは全く問題ありません。むしろ、現場の安全衛生管理をすでに行っている担当者が兼任することは、業務の効率化や一貫性を保つ上で非常に合理的です。
例えば、現場の状況をよく理解している職長が責任者を兼ねることで、保護具の選定から着用指導、管理までをスムーズに進めやすくなります。また、衛生管理者が兼任すれば、化学物質のリスクアセスメントから保護具の管理まで、一気通貫で担当することが可能です。
ただし、兼任する場合はその分、一人の担当者にかかる業務負担が大きくなる可能性もあります。責任者の業務内容を正しく理解し、社内でサポートできる体制を整えることも大切です。
現場のキーパーソンである職長の役割や、そのために必要な職長教育・安全衛生責任者教育については、別の記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせてご覧ください。
保護具着用管理責任者教育の具体的な中身
保護具着用管理責任者に選任されるためには、原則として専門の教育を受講する必要があります。この教育では、責任者として職務を遂行するために不可欠な知識とスキルを体系的に学びます。具体的にどのような内容を、どれくらいの時間をかけて学ぶのかを見ていきましょう。
どんなことを学ぶ?講習のカリキュラム
講習は、座学だけでなく、保護具の装着訓練などの実技も交えながら行われます。単に知識をインプットするだけでなく、現場で実践できるスキルを身につけることが目的です。
厚生労働省によって定められたカリキュラムの主な内容は以下の通りです。
教育科目 | 内容の概要 |
---|---|
保護具に関する知識 | 保護具の種類や性能、正しい選択・使用方法、保守管理の方法などを学ぶ |
労働災害の防止等に関する知識 | 保護具着用に関する労働災害事例や、ばく露を低減させるための対策などを学ぶ |
関係法令 | 労働安全衛生法など、保護具の着用管理に関連する法律や規則について学ぶ |
この講習を通じて、なぜ保護具が必要なのかという根本的な理解から、様々な種類のマスクや手袋の正しい使い方、日常のメンテナンス方法、さらには関連する法律まで、責任者として知っておくべきことを網羅的に学習します。
教育時間の目安は6時間
保護具着用管理責任者教育に必要とされる時間は、合計で6時間以上と定められています。この時間には、実技教育の時間も含まれています。
各科目の標準的な時間配分は以下の通りです。
教育科目 | 時間 |
---|---|
保護具に関する知識 | 4時間 |
労働災害の防止等に関する知識 | 1時間 |
関係法令 | 1時間 |
合計 | 6時間 |
特に「保護具に関する知識」には4時間という長い時間が割り当てられており、その中には1時間以上の実技講習が含まれています。実際に保護具を手に取り、正しい装着方法やフィットテストなどを体験することで、現場での指導に活かせる実践的なスキルを習得します。
どうやって受講する?講習の申し込み方法
保護具着用管理責任者教育を受ける必要があるとわかったら、次に具体的な受講方法を検討しましょう。新しく始まった制度ということもあり、どのように申し込めばよいのか迷うかもしれません。ここでは、一般的な受講方法について解説します。
外部の講習機関を利用するのが一般的
保護具着用管理責任者教育は、専門的な知識と実技を含むため、多くの企業では自社で実施するのではなく、都道府県労働局の登録を受けた教育機関などが開催する外部講習を利用するのが一般的です。
専門の講師から最新の法令に基づいた質の高い講義を受けられるだけでなく、実技講習に必要な設備や保護具も用意されているため、担当者の負担を大幅に減らすことができます。講習を修了すれば、責任者として選任されたことの証明となる修了証も発行されます。
受講形式には、指定された会場で受ける「会場講習」と、講師を自社に招いて実施する「出張講習」があります。受講者が複数名いる場合は、移動の手間やコストを削減できる出張講習が便利です。
どのくらいの費用がかかるのか、まずは概算を知りたいという方は、簡単な入力で費用がわかる料金シミュレーターをお試しください。
会場講習の詳細はこちら 出張講習の詳細はこちら 料金シミュレーターで費用を確認する
オンラインでの受講は可能?
時間や場所を選ばないオンラインでの受講を希望する方も多いでしょう。しかし、保護具着用管理責任者教育には、マスクのフィットテストなどの実技が必須とされています。
このため、講義部分をオンライン(eラーニング)で行い、実技部分のみ対面で実施するハイブリッド形式の講習は存在しますが、すべてのカリキュラムをオンラインだけで完結させることは、現時点では認められていません。
講習を選ぶ際は、必ず6時間以上のカリキュラムに1時間以上の対面による実技が含まれているかを確認してください。要件を満たさない講習を受講しても、正式な教育記録として認められない可能性があるため注意が必要です。
自社に合った講習の選び方など、ご不明な点があればお気軽にお問い合わせください。
ここが知りたい!保護具着用管理責任者のQ&A
新しく始まった制度だからこそ、細かい点で疑問や不安が出てくるものです。ここでは、保護具着用管理責任者に関して特に多く寄せられる質問について、わかりやすくお答えしていきます。
もし選任しなかったら罰則はある?
はい、保護具着用管理責任者の選任は労働安全衛生法で定められた義務であり、選任すべき事業場がこれを怠った場合、罰則の対象となります。
具体的には、労働安全衛生法第120条に基づき、「50万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。単に罰金を支払えば済むという問題ではなく、法令違反は企業の社会的信用の低下にも繋がります。さらに、万が一労働災害が発生した際には、企業の安全配慮義務違反が厳しく問われることになるでしょう。
これは他の安全衛生義務についても同様です。例えば、フルハーネス型墜落制止用器具特別教育を受けさせなかった場合のリスクなど、法令遵守の重要性を理解しておくことが大切です。
教育記録の保管義務について
はい、保護具着用管理責任者教育を実施(または受講)した記録を作成し、3年間保管する義務があります。
これは労働安全衛生規則で定められており、教育の実施を証明する重要な書類となります。記録には、以下の項目を記載しておく必要があります。
記録すべき項目 |
---|
受講者の氏名 |
教育の科目 |
教育を実施した日時・場所 |
講師名 |
外部の講習機関で受講した場合は、発行される修了証がこの記録の代わりとなりますので、大切に保管してください。記録管理の方法など、他の教育にも共通する疑問点は「よくある問い合わせ」のページでも解説しています。
再教育は必要になる?
2024年4月現在、保護具着用管理責任者教育について、法律で定められた再教育の義務はありません。一度教育を修了すれば、選任要件を満たし続けることができます。
ただし、関連法令の改正や、新しい性能を持つ保護具が登場することもあります。そのため、定期的に知識をアップデートすることが強く推奨されています。他の安全衛生教育では「おおむね5年ごと」の再教育が目安とされているケースが多く、これを参考に定期的な知識の更新を計画するのが望ましいでしょう。
例えば、現場のリーダーを対象とした職長教育でも、定期的な能力向上教育が推奨されています。責任者として常に最新の知識を持ち、職場の安全レベルを維持していく意識が重要です。
まとめ:適切な保護具管理で職場の安全レベルを向上させよう
この記事では、2024年4月から義務化された保護具着用管理責任者について、その役割や選任義務の対象となる事業場、責任者の要件、そして教育カリキュラムまでを詳しく解説しました。
化学物質や粉じんなど、リスクの高い作業環境から従業員の健康を守るためには、保護具をただ配布するだけでなく、その効果が最大限に発揮されるよう専門的な知識を持って管理することが不可欠です。保護具着用管理責任者の選任は、法改正によって定められた新しい義務であり、企業の安全衛生管理体制を強化する上で重要なステップとなります。
まずは自社が対象事業場に該当するかを再確認し、速やかに責任者の選任と教育の受講を計画しましょう。社内に適任者がいるか、誰に教育を受けさせるべきかなど、検討が必要です。
専門的な実技も含まれるため、外部の講習機関を利用するのが確実で効率的な方法です。受講人数や場所に合わせて講師を派遣する出張講習や、各地の会場講習など、自社に最適なプランを選択できます。費用が気になる方は、まず料金シミュレーターで概算費用を確認してみてはいかがでしょうか。
従業員の安全を確保し、企業の信頼性を高めるためにも、計画的な責任者の選任と教育を進めていきましょう。
参考URL
厚生労働省:保護具着用管理責任者に対する教育について
厚生労働省が公開している公式リーフレットです。制度の概要や教育カリキュラムがわかりやすくまとめられています。
厚生労働省:「保護具着用管理責任者に対する教育」の実施について(通達)
教育の具体的な実施方法や内容について定めた、都道府県労働局長宛の公式通達です。より詳細な規定を確認できます。
e-Gov法令検索:労働安全衛生規則
保護具着用管理責任者の選任義務を定めた条文(第十二条の五)などを直接確認できます。